第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
産屋敷様のお薬を全て調合して薬包に入れるとそっと彼の布団の横にある薬箱に置く。
その後、いつもこっそりと少しだけ手を翳して体の不快感を取り除いているが、今日は顔色がそこまで悪くなかったのでほんの少しだけ背中を一撫ですると頭を下げた。
「…産屋敷様、終わりました。」
「ありがとう。ほの花。蒸し返すようだけど…折角だからご両親に天元を紹介しておいでね。きっと…宗一郎さんと灯里さんが生きていたら泣いて喜ぶよ。」
「産屋敷様…。」
「僕がこんなに嬉しいんだから、実の親はもっと嬉しいはずだよ。つらいところに行かせてしまうことは申し訳ないと思うけど、折角行くなら少しくらい楽しむ気持ちも持って行っておいで。」
彼の言葉がスゥッと入ってくるけど、鬼と戦っている最中に恋仲の男性と二人で旅行するようなもので、そこはかとなく不謹慎なことをしている気がしてならない。
ここまで産屋敷様が言って下さってるのだから気にしすぎなのかもしれないが…。
「ほの花が少しでも楽しんで帰ってきてくれたら僕も嬉しいんだけどなぁ。」
「え、…あ…、ありがとう、ございます。」
「御供物をお願いするよ。宗一郎さんと灯里さんに宜しく伝えてほしい。」
産屋敷様はとても優しい。
さりげなく私が気にしないようにこうやって用事を言い付けてくれる。"命令"と言う名目ならば私が動きやすいと思ってくれたのだろう。
やはり彼はこんな大きな組織を動かせるだけの素晴らしい人柄をお持ちだ。
私は深々と頭を下げると、それを了承して部屋を出た。
本音を言えば宇髄さんと二人でお出かけというのは嬉しい。恋仲の男性とそういうことをしたことがなかった私からすると甘い響きで憧れてしまうこともあった。
目的は"楽しく旅行"ではないが、彼と二人でいられることがどれだけ尊いことなのか、死と隣り合わせの生活をしていると毎日感じるから。