第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
「え、と…怪我が治るまで…此処で面倒を見たら…駄目?…ですよね?」
「はぁ?」
ほら、物凄く嫌そうな顔をしている。
猫を数日預かることくらいいつもの天元なら二つ返事で頷いてくれそうなものなのに。
自分の手の中で暴れている子猫を見て辛辣な表情を向けている天元に私は頭を悩ませる。
「駄目…?ですかね…?」
下からお伺いを立てるように見上げてみると一瞬たじろいだ天元だけど、すぐにそっぽを向くと口を尖らせる。
しかし、その後ジト目でこちらを向いた天元から発せられた言葉に驚かされる羽目になった。
「…分かってんのか?」
「え?何が?」
「コイツ…オスだぜ?!」
「……はい?」
オスだからと言って何の問題があったのだろうか?そもそもころのすけを拾って来た時だってオスだったではないか。
一体何故いま、オスとメスのことを気にする必要があったのか全く見当もつかずに首を傾げることしかできない。
「だーかーらー!!コイツ、オス!!それなのにお前の着物の中に入って乳房を撫で回しただろ?!?!」
「は?」
私はその瞬間、呆然と天元を見ることしかできなかった。
しかし、その反応は間違っていないはずだ。
そもそも天元の中で『オス=男』という脳内変換をされたのは明白だが、彼に捕まえられているのは小さな猫だ。
それが着物の中に入り込んだからと言って破廉恥な想像ができる人が一体何人いるだろうか?
限りなく0に近いと思うのは間違いないと思う。
「オスに俺の女の乳房を触られたんだぞ?!腹が立つに決まってんだろ?!」
「い、いや…ね、猫だよ?」
「はぁ?だから何だよ。男に触られたっつーことに間違いはねぇだろうが!!この野郎…、ふざけんなよ?!」
嫉妬してくれるのは嬉しい。
だって天元が私を愛してくれている証拠だから。
だが、可愛い猫にまで嫉妬するなんて天元ったら可愛い…となるわけはない。
「…ころのすけだってオスだったじゃん。」
「ころのすけとだって俺は一緒に風呂に入らせたことはないぞ。」
そう言われればそうだ、けど…。
この人の愛情の深さはいったいどこまでいっているのだろうか?
それもこれも平穏が訪れるまで紆余曲折あったことが原因なのは間違いないが私は苦笑いしながら頬を掻いた。