第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
「ちっがーーーーう!!使ってない!!あの力は…!使ってないの!!ただ…転んで捻挫しちゃって…足が痛いの…!!」
怖い顔をして凄んでくる天元に私は慌てて制止した。
彼が言っているのは治癒能力のことだろう。
「…使ってない…?捻挫…?」
彼には本当に心配も迷惑もかけた。
それは重々承知している。私が体を壊した最たる理由が天元の腕を治したからだということを彼はきっといまだに申し訳ないと思っているのだろう。
だけど、あの時天元に使わずにいたとしても私はあの日、死んでもいいと思っていたのだからきっと何処かで使って命を賭していたように思う。
それほどまでに自分の命を軽視していたし、それによって天元がどんな想いをするかなんていうことまで考えが至らなくて無鉄砲なことをしてしまった。
「…本当に、使ってないか?」
その瞳は真剣そのもの。
いつもはふざけて揶揄ってくる明るい天元だが、私の体のことになると人が変わったように心配性だ。
これは私が自分の命を軽視した代償。
彼をこんな風に心配させたのは私の罪だから…
一生彼のそばで生きて愛し抜こうと決めている。
私は安心させるように大きく頷くと漸く天元はほっとしたように息を吐くと表情を和らげた。
「…なら、いいけど…捻挫…?ああ…足な?見せてみろ。」
包帯が巻かれている足を見て、大きな体を縮こませて屈むと状態を見てくれる天元。
纏う安堵の空気に私も顔を綻ばせる。
しかし、見上げた顔は呆れたような表情ですぐに私の顔も引き攣った。
「…ったくよぉ、腫れてんじゃん。お前な〜…鈍臭いんだから気をつけろよ?猫助けようとしてお前が怪我してたら意味ねぇだろ?」
「ご、ごめん…。受け身取れなくて…情けない〜…」
「ったく、んで?この猫はもう怪我の手当てしたから外に置いてこればいいわけ?」
「え…!?え、あ、あの…!」
飼いたい…までとはいかずとも、怪我が完治するまでは此処で様子を見たいと思っていたので、天元のその発言に驚きを隠せなかった。
いつもならば『よし、じゃあ此処で面倒見てやるか。』と言って来そうなものなのに…。
その表情は何処となく不満気に歪んでいる彼に私は首を傾げた。