第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
モゾモゾと動いているほの花の胸元の物体を凝視して見てみれば、彼女の言う通り…
「あー…猫…か。……ったく、何で猫がそんなところに入るんだよ…。」
ほの花は確かにたまに物凄くボケていることはある。天然と言えばそうなのだが、頭が良い割にはトボけたことを言うのでずっこけることもしばしば。
そんなところも可愛いと思ってしまっているのはさておき、擽ったくて笑っているほの花の元に行き、胸元で転がっている猫を持ち上げた。
『にゃぁっ!』
「にゃーじゃねぇの。俺の許可なしにそんなところに入るなっつーの。」
猫相手に何を言っているのだと思われても仕方ないかもしれないが、どうにもこうにもほの花相手には堪忍袋の尾が短い。
持ち上げた猫にジト目で睨みつけると敵意を感じたその猫も唸り声をあげてきた。
「はぁー…擽ったかったぁ…。おかえり、天元!ありがとう!」
「おお、まぁいいけど…どうしてこうなった?」
家は猫を飼っていなかった筈だし、野良猫も棲みついていなかった。
要するに猫との接点はない。
ころのすけは琥太郎の家にいるし、ここ最近動物との触れ合いはほとんどなかったので少しばかり驚いた。
「あのね…!お散歩に行ったら怪我をしてたの。えっとね…そこの…」
ほの花はそう言うと立ち上がってその猫の怪我をした部分を示そうと一歩踏み出した。
しかし、その瞬間苦痛に顔を歪ませたほの花の体勢がグラついたので俺は慌ててもう片方の手で彼女の体を支えた。
怪我と聞いてからのほの花のこのフラつきに俺の考えは良からぬ方向に向いて眉を顰める。
まさか…?
まさか、だよな。
「あー、ごめんね!ありがとう…!実はさ…」
「おまえ、まさか…使ってねぇよな…?」
「へ…?…え、あ…その…」
「約束したよな?!もう使わないって…!」
明らかに狼狽えたような態度のほの花に俺の背中に汗が伝う。
俺が恐れていたのはほの花の治癒能力だ。
体を壊したことで二度と使わないと再三約束した。それなのに…まさかまた使ったというのか?
しかし、俺の態度が一変したことでほの花が慌てて首を振った。