第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
所用を済ませて帰ってくると玄関までほの花の楽しそうな笑い声が聴こえて来た。
まぁ、俺はほの花のことを溺愛し過ぎてどんな声でも聴き逃さない自信があるが、今回は間違いなく楽しそうだ。
最終決戦が終わり、仲間の死に暫くは塞ぎ込んでいたほの花。
もちろん顔には出さずとも俺とて多くの柱仲間や鬼殺隊士を亡くして胸が痛む想いだったが、悲しむよりもほの花のことが気掛かりで精神的にはそこまで堕ちてはいなかった。
最近では漸く笑うようになってきたが、一時期の下手くそな笑顔には本当に見ていられなかった。
人一倍優しくて、尚且つ薬師として"人を治す"と言うことにやり甲斐を感じていたほの花。
他の隊士に比べると"人の死"に対して敏感だ。
"医療で救えなかった命"と捉えてしまうからだろう。
誰もそんなことは思っていないが、恐らくほの花は誰も止めなかったら瀕死の隊士全員をあの治癒能力で救っていたことだろう。
だから医療者だと言うことは時に足枷だと感じることも多かった。
そんなほの花の久しぶりの笑い声に俺まで嬉しくなってしまって、履き物を脱ぐと足音を消すこともせずに部屋に向かったのだ。
──トンッ
襖を勢いよく開けると座りながらこちらに背中を向けて笑っているほの花の姿。
一体どうしたのだ?と思い、声をかけようとするとほの花が襖の音に反応して振り向いた。
「あ!天元…!おかえり、なさい…!あはっ、あははっ!擽ったいってばぁー!!」
「…お、おう…ど、どうした?」
こう言っては何だが、楽しそうに笑っているが、その声はどうにも間伸びして少しばかり厭らしく聴こえてしまうのは最早病気だ。
しかし、こちらを振り向いたほの花の胸元は肌蹴てしまっていて、その懐の着物の中にはモゾモゾと動く物体がいて、流石の俺もギョッとした。
「…は?!ちょ、な、何だ、それ…!」
「あ、あはっ…!て、てんげん…っ!ね、ねこがぁ…!」
「………猫?」
わけがわからないと思っていたその状態もほの花の言葉で漸く察しがつくと状況を把握するため冷静になった。