第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
まきをちゃんが部屋を出て行くとすぐに私は猫の治療に取り掛かる。
幸いなことにそこまで酷くはない傷だけど、放っておけば化膿して命も危ない。
私たち人間と違って体が小さな猫は少しの化膿も命取りだ。
命は取り留めても切断しなければならなくなることだってあり得る。
少しだけ怯えた目をして見上げてくる猫を安心させるように一度抱き上げると"よしよし"と撫でてやる。
動物は好きだ。
里にいた頃は人間よりも動物と遊ぶことも多かった時期もあるくらいだから割と好かれやすいと思う。
優しく撫でてあげていると安心してきたのか擦り寄ってくるその猫に応急処置を始めた。
消毒液で優しく患部を拭き取ると、人間用だと強すぎるかもしれないのでほんの少しの量の傷薬を伸ばして塗ってやる。
どうやら敵だとは見なされていないようで、治療にも協力的なその子猫に私も頬が緩んだ。
「…もうすぐ終わるからね〜?」
そう声をかければ、『わかりました!』と言わんばかりに"にゃお"と返事をしてくれるので嬉しく感じる。
もちろん会話として成り立つ筈もないのに私は子猫に話を続けた。
「痛い?大丈夫?」
痛いはずだ。
猫は本来、高いところは平気なはずなのに、あそこで動けなかなっていたというのは痛みがあったからに他ならない。
それでも、『大丈夫だよ』と頭を擦り寄ってくるその猫に包帯を巻き付けて応急処置は終わった。
まだ痛みはあるかもしれないが、傷薬には微量の痛み止めも配合しているから少しずつ痛みは消えて行くだろう。
試しに畳の上に子猫をそっと置いてやったが、すっかり懐かれてしまったようで私の膝の上に乗っかてきた。
「ふふ、ひょっとして私のこと仲間だと思ってる?」
指で額を摩ってあげれば気持ちよさそうに更に擦り寄ってきたが、次の瞬間、ビクッと跳ねたその子猫が私の着物の中に入ってきた。
「うわぁっ!!ひゃあっ!!あっはははは!!やだぁ!擽ったいぃー!やめてよぉ〜!!あははははは!!」
一体何事なのか?
急に懐に入ってきた毛むくじゃらに擽ったくて身を捩っているとその理由はすぐに分かってしまった。
勢いよく開かれた襖によって──