第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
無理が効かない体になってしまってからというもの、天元は私のために薬師としてやり甲斐を持てるように手配をしてくれた。
鬼殺隊がまだ存続していた時は作った薬を届けてくれたし、今では作った薬を薬屋さんや診療所に卸せるように段取りをしてくれている。
自分で持って行けるのはカナヲちゃんのところだけで、あとはどんなところに卸してくれているのか知らない。
でも、かなりやり手なのかたんまりお金をもらってくる天元には驚かされる。
そんな彼のおかげで今も尚、薬師として仕事ができるのだ。
感謝しかないし、足を向けて寝られないのは今も昔も変わらない。
まきをちゃんは私と猫を部屋まで送り届けてくれると、すぐに部屋を出て行った。
お湯を沸かしに行ってくれたのだ。
彼女を見送るとすぐに薬箱を手にして自分の足に湿布を貼り付けて、包帯をぐるぐる巻きつける。
足袋を履いてしまえば怪我をしていることなど分からないだろう。
…とは言え、目敏い天元にいつまで隠し通せるのか。
時間の問題な気がしないでもないところが良くも悪くも天元だ。
足袋を履き終えて、おとなしく近くで待っていた猫に目を向けて抱き上げたところでまきをちゃんが桶にお湯を溜めて持って来てくれた。
「手当て終わった?」
「うん!自分のは終わったよ〜。ありがとう!」
「ううん。今から洗濯物も取り込んじゃいたいけど、一人で大丈夫?」
ああ、そうだ。
まきをちゃんは今日が当番の日。
私も最近では仲間に入れてもらっているが、如何せん体調不良の日が多くて代わってもらうことが多いのが申し訳ない。
今日もうっかり怪我なんてしたから、それが天元に知られたら『家事なんてするな』と言われるに決まっている。
彼の気持ちもわかるが、私もこの家の嫁側の人間としては少しくらい嫁業務をやりたいと言うものだ。
もちろん無理をすればその分、彼に迷惑をかけるのだから無理はできない。
だけど、できる範囲のことはやらせてもらいたいのだ。
どうにもこうにもこの家での1番の発言権があるのは天元だし、この家もみんなの家ではあるが所有者もまた天元。
彼の言葉に逆らえる人もまたそうそういないのがつらいところだ。