第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
しかしながら、そうなるとこの猫の手当てをするためには一度屋敷に戻るしかなさそうだ。
天元もそこまで遅くはならないだろうし、1日くらいこの猫を預かるくらいなら文句は言わないだろう。
昔、犬を拾ってきた時ですら怒ったりしなかったのだから。
その時、ころのすけと名付けた犬は今、琥太郎くんの家で元気に暮らしている。
本当は家で飼いたかったのは山々だったが、体が弱ってお世話もままならない私を見て、天元が琥太郎くんの家にお願いしに行ってくれた。
琥太郎くんの家ならばすぐに会いにいけるし、私の負担にもならないだろうと。
だからたまに体調がいい時は会いに行ったりもしているし、久しぶりに会えば『会いたかった〜!』と言っているかのように纏わりついてくるころのすけが可愛くてたまらない。
今回もまだ体調が万全でもない私が猫を飼いたいだなんてことはとてもじゃないが言えない。
私はとにかく腕の中の子猫を手当てすべく家に連れて帰るため、立ち上がった…
「っ、いっ……!!」
…のだが、ビクンと体が跳ね、片足に痛みが走ったため、思わず木に掴まるはめになった。
「…い、てて…、え?」
転んで怪我をしたのは子猫のはず。
私ではない…
…と思いたいのだが、恐る恐る着物を捲り上げて足首を見てみる。
足に生々しい傷は見当たらなかったが、右足の踝あたりが妙に赤黒く腫れ上がっていることに気付くと天を仰いだ。
「…ああ…、やってしまった…。」
どうにもこうにもこれは捻挫。
昔の身のこなしが懐かしいが、いま無いものねだりをしたところで過去の栄光は取り戻せない。
私は片手で猫を抱えながら、片方の手で木を支えにして歩き出す。
もうこのまま家に蜻蛉返りする他ない。
もちろん永遠に木が近くにあるわけもないので、塀やら石垣やらを探して必死にそれに支えられながら目指すのは目と鼻の先の宇髄邸。
天元ならば行って帰って来るのに5分とかからないだろう。
しかし、今の私は帰るだけで恐らく十五分近くかかっていただろう。
初夏の陽気と腕の中の温かい子猫の体温もあり、着いた頃には汗だくだった。