第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
「天元は最初から君を一人で行かせる気なんてなかったと思うよ。君がどれほど強かったとしても…ね。」
「…え、あ、いや…、」
確かに"お前が可愛いから"という意味のわからないことを理由に挙げていたのは記憶に新しいが、せめて私がもっと強かったら許さざるを得なかったとも思うのだ。
私が柱ほどの実力があれば宇髄さんだって認めざるを得なかった。
「…どれほど君が強かったとしてもそれを上回るほど君を愛していれば、自分の手でいつだって守ってあげたいと思う物じゃないかな。少なくとも天元はそう思ってるからこそ僕のとこに頭を下げにきたんだよ。君のためならば頭を下げることなど苦でもないんだ。」
「…産屋敷、様…。」
彼の言葉は凄く説得力がある。それが本当ならば私は宇髄さんに物凄く愛されているんだ。
あまりに嬉しくて顔が緩んでしまう私を見て産屋敷様もニコニコと微笑んでくれる。
「天元と一緒にいるほの花を今日久しぶりに見たけど、随分女らしくなっちゃって…宗一郎さんの代わりに嫁に出す父親の気分になっちゃったよ。」
「よ!よ、よめっ?!な、何を仰いますか!わ、私はただの継子です!」
「こら…。そんなこと言うと天元に怒られるよ。継子より大切な"想い人"なんだから。」
「…す、すみません…。でも、そんな私なんか…、今、恋仲とさせて頂いてるだけで幸せなのに…!そんなの恐れ多いです…。」
考えたこともなかった。彼はつい最近まで奥様三人がいたわけで、それが本当は"嫁"という形を取っていただけだとしても、自分がその立場になりたいだなんて考えなど浮かんだことすらなかったのだから。
産屋敷様が夢のまた夢のようなことを言うから動揺してしまった。
宇髄さんがどう思ってくれているのかは分からないけど、今のままでいい。
今、幸せすぎてこれ以上望んだらせっかく手に入れた幸せまで手からこぼれ落ちていく気しかしない。
あわよくばこの時間が少しでも長く続きますように。
それが私のささやかな願いなのだから。