第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
──にゃぁ
昔を懐かしみながらもその木を見上げていると、急に聴こえてきたのは鳴き声。
鳴き声から察するに恐らく猫だ。
小さな小さなその鳴き声に思わず足元を確認してしまった。子猫であれば、足元で踏んだり蹴ってしまったりしたら大変だ。
しかし、見下ろした足元近辺には鳴き声の正体を見つけることはできなかった。
「あれー…?猫ちゃーん…、どこー?」
木の周りをぐるっと一周回ってみても…
「いないなぁ…。」
一通り探し終えて、最後に辿り着くのは考えたくもない"木の上"だ。
継子時代であれば、簡単に登れたけど、今は体が鈍ってる上にすっかり虚弱になってしまっている。
もし、木の上に猫がいたならば…
──にゃぁ…
「…いた……、嘘でしょー…?」
こういう時に限ってまさかの状況に陥るのは人生何度もあるだろう。
今日がたまたまその日だっただけのこと。
どうしたもんか、と見上げた先にいるのは枝に掴まってこちらを見ている珍しい銀色の毛の子猫。
恐らく降りれなくなってしまっているのだろう。
「可愛い〜…!おいでおいで…!私、登って落ちたら旦那様に怒られちゃうから…、受け止めてあげるからおいでー…!」
こんなことを子猫に言ったところで何も伝わらないだろうが、目一杯手を広げると、猫に向かって『おいでおいで…」と手招きをした。
震えるその姿を見て、早く何とかしてあげたいとあたりを見渡してみると大きめの板が落ちていた。
小さな子猫だが、近づけてやれば、これに乗るくらいならできるだろう。
私はその板を拾い上げると、子猫が掴まっている枝の近くまでそれを近付けてやるが、この木は思っているよりも大きい。
子猫のいる枝まで板を近づけてもまぁまぁの距離があって子猫は飛び降りようとしない。
仕方なく、少しだけ足場になりそうな出っ張りがあったのでそこに足をかけて、その板をさらに近づけて行く。
お世辞にも足場がいいとは言えないそこに片足で立っているのだからバランスが悪くて当たり前だ。
しかし、板が近づいたことでやっと安心してそこに飛び移ってきた猫に、私は完全にバランスを崩してしまった。