第50章 【番外編】溺愛はほどほどに
最終決戦の後、しばらくは放心状態だった私だけど、漸く精神的にも立ち直らなければ…!と思えるようになったある日のこと。
天元は所用で出掛けると言うので、仕方なく家で暇を持て余していた。
ついて行きたいのは山々だったけど、つい先日風邪をひいてしまった私には遠出や長い散歩など余計に迷惑をかけてしまうだろう。
再び、発熱をして天元に心配かけるに決まっているのだ。
遊郭の戦い以降、やはり少しだけ体は弱くなっているのは否めない。
風邪をひきやすくなったし、ひいたらなかなか治らない。
疲れやすいのも気になっていた。
そんな私でも、全てを受け入れてくれた天元には感謝しかない。
彼の妻としてできるだけ長く添い遂げたいので、私も無理はせずに大人しく静養しているのが一番なのだ。
いずれは子も産みたいが、その時のために体調を整えなければならないから。
しかしながら、家の中に大切な旦那様がいないとなると、仕える相手もいないわけで、いささか手持ち無沙汰だった。
「…散歩でも行こうかなぁ…」
長い時間の散歩は体に鞭打つ行為だが、少しの散歩ならば運動不足解消にも良いし、気分転換にもなるだろう。
「…よっし、行こっかな。日が暮れる前にサクッとお散歩してこよ…!」
そうと決まれば私は身支度を整えて、同居人に散歩の旨を伝えると屋敷を出た。
──季節は初夏
ほんのり暑い日差しが降り注ぐ中、通り慣れた道を歩けば季節の移ろいを感じることができる。
木々に緑が生い茂り、サワサワと風に揺れて青々とした匂いが漂ってくる。
今くらいの季節は過ごしやすくて良い。
木に近づいても大嫌いな蝉はいないし、木陰も涼しくて過ごしやすい。
宇髄邸からほど近くにある大きな木は私のお気に入り。
記憶が戻ったばかりの頃、何度も天元がここまで散歩に連れてきてくれた。
あまり遠くまで行けなかった私はここまで来るのもゼェゼェ言っていたのを思い出す。
継子時代はこんな木を登るくらい造作もないことだったのに、今は下で見上げることしかできない。
すっかり訛った体に鞭打って登った暁には真っ逆さまに落ちて頭を打ってしまうことすら考えられる。