第10章 『実家に帰らせて頂きます』【其の弍】
「突然の訪問をお許しください。
お館様におかれましては御壮健で何よりです。不躾ではありますがお願いがあって参りました所存です。」
……この方はどちらさまでしょうか。
今日は産屋敷様にお薬の調合をする日。
週に一度はこうやってお加減を伺いながら薬を調整しているのだが、一緒に来ているのは"あの"宇髄さん。
口が悪くて豪快で派手好きな男''宇髄さん"。
そう言われれば最初ここで会った時も産屋敷様にはこんな感じだったかもしれないが、いつもの彼に慣れすぎてて変な顔をして眺めてしまう。
「いいんだよ、天元。ほの花のおかげで最近は調子が良い日が増えてるんだ。…で、お願い、とは?」
「恐縮です。実はお館様の薬に使う薬草が底を尽き掛けているとほの花より申し出があり、里に帰らねば無い物もあるとのことなので、共に行ってこようと思います。つきましては任務の調整をお願いしたく、参りました。」
あまりに流暢に丁寧語を喋る彼に最早私は驚愕しすぎて口を開け広げたままだ。
だが、産屋敷様は大して驚いてもいないようでニコニコしながらコチラを見ている。
え、いつもこの人、産屋敷様の前はこうなんですか…?
「ああ、そうだったんだね。確かに灯里さんは変わった薬草をいつも使っていたね。よく覚えてるよ。僕のことで世話をかけて申し訳ないね。天元はいいのかい?」
「構いません。因縁の地にほの花一人で行かせることのが憚られますし、一緒に行った方が返って早く帰ってこれます。」
「それならば…任務に関してはこちらで調整しよう。いまや、ほの花の薬は鬼殺隊にとってもなくてはならないものだからね。天元、よろしく頼むよ。」
「御意。…ほの花、俺は外で待ってるから。薬を頼んだ。」
「…え、あ、は、はい!承知しました!」
隣にいるのが宇髄さんじゃないみたいで呆けてしまっていたが、こちらを見た彼はいつもの彼の顔でホッとした。