第49章 【番外編】色褪せない想い【現パロ】※
「…浮気、されたかどうかは分かりません…彼は、その日出張で此処にはいなかったと言っていましたから。」
結局、暁が浮気したかどうかはわからない。
確かにあれは暁だったと思う。
でも、取っ捕まえて追及したわけでもないし、証拠はない。
私は暁の言うことを信じるしかないのだ。
「…は?…別れないって言いたいわけ…?」
「別れないも何も…彼が否定している以上、どうすることもできません。」
「…あんたのことなんて大して好きじゃないわよ。ただ目の保養だったから付き合ってただけのこと。」
目の前の伊織さんと言う宇髄さんの彼女はどうにも含み笑いをしている。
私のことなんて知らないはずなのにまるで全てを見透かしているようなその視線は少しだけ怖い。
震えるのはかけられた水が冷たかったからなのか、彼女が怖いからなのか。
「…そう、だとしても…彼から別れたいと言われない限り、別れる理由はありません。」
「あ、そ。天元を誑かしたせいで彼氏に浮気された哀れなあんたを可哀想だなんて思わない。私の彼氏を誑かした報いだと思ってせいぜい私の怒りを受けることね。」
そう言うと、伊織さんは持っていたペットボトルを私に投げつけて、帰って行った。
その場に取り残された私は呆然として彼女の後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。
彼女が怒るのは当然だ。
言えないけど、私は完全に彼女に殴られても仕方がないことをしていたのだから。
転がったペットボトルを拾うと鞄から防寒対策で持っていたスカーフを巻いて帰路に着く。
道ゆく人はびしょ濡れの私を見て好奇の目を向けてくるが、仕方ない。
薬局に戻るにしてもこんなゴタゴタになってることを同僚の人に知られたくないし、心配もかけたくない。
しかし、伊織さんの怒りは相当のものだったようで次の日も、その次の日も私に会いに来た。
言葉は発しない。
ただ持っていた水をかけると満足して去っていくのだ。
今まで私は有難いことにいじめを受けたことはないからこんな仕打ちをされたのは初めてのことだが、
宇髄さんとの関係が許されるなら彼女が気の済むまでそれを受けたい、なんて。
途中から耐える主旨が変わってきたことに私は気づかないふりをした。