第49章 【番外編】色褪せない想い【現パロ】※
「な、んで…?」
「…ごめん。」
「私たち…結婚も視野に入れてたんだよ?」
「…ごめんな。」
確かにそんな話も出ていたのは知っている。
親に挨拶に行っていなかったことだけが唯一の救いだが、伊織はそのつもりだったのだろう。
申し訳ないとしか、言いようがない。
だが、こんな時に限って女というのは勘が良かったりする。
伊織もそれに漏れなかったようで、オレをジロリと睨みつけながら唇を震わせて、こぼれ落ちた言葉に狼狽えてしまった。
「…あの女…?」
「は?」
「あの女、なんでしょ…?薬局の…。」
「お、おい、伊織…。」
ポーカーフェイスはできるつもりだ。
いま、ほの花のことを悟られるようなほどの態度は取っていない。それなのに目の前にいる伊織は確信しているかのような口振りだ。
「…寝言で、何度も何度もあの女の名前を呼んでた。」
「…へ?」
「天元は…気付いてないでしょうね。隣に私がいるのに…ほの花って…!何度名前を呼んだと思ってるの…?屈辱だった…私の気持ちがわかる…?!」
そう言われて申し訳なさから背中に冷や汗が流れたけど、無意識下のそれは制御ができない。
「ほの花って、名前を聞いてからどんな女なんだろう…って思ってたら、偶然この前街で会って驚いたよ…。」
「…伊織…。」
「あーそうですか。美人にうつつ抜かしたってわけ?」
「…落ち着け。違う。ほの花は、関係ない。」
「その名前出さないで!!!」
顔を真っ赤にして震えている伊織の目は怒りに満ちている。
しかし、その怒りの矛先がオレだけでないことは一目瞭然。
ほの花のことを言うつもりはなかった。でも、取りつく島がないほどに伊織はヒートアップしてるし、まさかオレが寝言でほの花の名前を言っていたなんて思いもしなかった。
それは完全にオレのミスだ。
「…伊織、アイツは悪くない。オレが勝手に…好きになっちまった。ごめん。」
「許さないから…!その女をここに連れて来て土下座させなさいよ!!そうじゃないと別れないから!」
鬼の形相の伊織の気持ちが分からないわけではない。そうさせたのはオレ。
だけど、この期に及んでほの花を巻き込みたくないと足掻いてしまうのだ。