第49章 【番外編】色褪せない想い【現パロ】※
家までの道のり、宇髄さんは道を聞く以外少しも話さなかった。
手は大きくて暖かい彼の其れに包まれていて信じられないほど安心してしまう。
思えば暁は最近よく仕事で会えないと言っていた。急にドタキャンされることもしばしば。
極め付けは以前はそこまでなかったのに急に出張が増えたこと。
薬剤師の仕事しかしたことない私からしたら出張の頻度など分かるはずもなく、言われるがままに送り出していた。
その結果がこれだ。
惨めで情けなくなる。
「…ここ?」
無意識に足を止めてしまったことで宇髄さんが久しぶりに言葉を発した。
彼は本当に駅から家までも送ってくれて、私が今いるところは自分のマンションの前。
体に染みついた帰巣本能と言うのは秀逸だ。
足が此処で止まったのは家に帰るために他ならない。
「…あ、そう、です。ありがとうございました。」
「…部屋の前まで送る。」
「え…?いや、此処で大丈夫、ですよ?」
しかし、そんな私の言葉を気にする素振りもなく、進む先はマンションの中。
エントランスに引っ張っていかれるとエレベーターの前で『何階?』と聞かれた。
断らなければ。
言わなければいけないのに私の脳は繋がれたままの手をまだ離したくないと言っている。
そんな本心に気付いているのか宇髄さんはどんどん進んでいく。
私の足がまた止まるところまで行くつもりだろう。
「…5階、です。」
彼は優しい。
私のために怒ってくれたが、その前は彼氏に誤解されないように話すからと言ってくれていた。
そんな宇髄さんに私は甘えてしまった。
今日だけ。
今日だけだから…
彼女さん、許してください。
再び私が彼の手を引いて止まったのは部屋の前。
無言で宇髄さんも歩みを止めてこちらを見つめている。
鞄の中から家の鍵を取り出して開けると、彼を見上げた。
「…ありがとうございました。」
もう此処でお別れ。
彼を彼女さんに返さなければ。
どれだけつらくてもこの人は私のモノではない。
そんな考えが頭を過ぎると無性に寂しくて苦しくてこみ上げるものがあった。
「っ…、っひっ…、く…」
我慢できなくて流れ落ちた涙を見た宇髄さんが私の手を引いて部屋の中に入ったのは数秒後のこと。
そのすぐ後、彼の綺麗な顔が目の前にあって唇に優しい温度を感じたのは更にその数秒後だった。