第9章 『実家に帰らせて頂きます』※
「ちょ、ちょっと待て。…分かった、落ち着いて話し合おう…。」
そもそもコイツはそこに帰りたくないほどの恐怖と屈辱を味わったはず。
それなのにたかが薬草を取りに行くためにそこに帰ろうと何故思える?
「私は落ち着いてますー!私、薬師として産屋敷様にお仕えするとは思ってもいなかったので必要最低限の物しか持ってこなかったんです。」
「…ま、まぁ…そうだろうな。」
「母に教えてもらった調合に必要な薬草も今はまだあるけど、今後無くなってもどこにも売ってないし、生えてもいないんですよ?そうなったら産屋敷様のお薬さえ作れなくなります。」
…コイツ、薬師の娘だけあって悪知恵が…いや、まぁ確かにそりゃあお館様の一大事に関わることだ。
ほの花の言っていることがまずいことだということは俺とて理解できる。
だがそれを引き合いに出してこられちまえば、断れば"鬼殺隊"としても"柱"としてもあってはならないこと。
当主の命に関わることなのだから。
「…つーか、そんなところ帰ってお前は大丈夫なのか。…ツラいだろ?」
「それは…ツラい、ですけど。背に腹は変えられません。それに…」
「それに…?」
「陰陽師としての生きた証は私が生きていることで証明できますが、母は薬師だったんです。母の生きた証もちゃんと私が受け継ぎたいんです。」
ほの花の瞳に嘘はない。
もちろん男探しの旅に行きたいだなんて言うはずもないことも分かっていたが、ただの思いつきで外泊許可取ろうとしてんなら絶対に許すつもりはなかった。
だけど、そこまで考えて、そこまで覚悟していて俺に許可を求めているんなら…
「…分かった。ただし、条件がある。」
「え、いいんですか?!わーい!ありがとうございます!!」
「待て、条件があるって言ってんだろ?」
「あ…はい。それで、条件…とは?」
正宗たちのことを信じてないわけではない。
だが、コイツのことになるとどうにも自分が関わりたくて仕方ねぇ。
「俺も一緒に行くわ。」
「………えええええ?!」
単純にほの花の育ったところを見てみたいと言う個人的な欲が出た。