第49章 【番外編】色褪せない想い【現パロ】※
伊織をくっつけたままでも構わなかった。
とにかくその栗色が自分の待ち望んでいた姿であることは間違い無いのだから。
「…っ、ほの花!!」
人波に背中を押されるようにどんどん先に行ってしまうその姿に思わず、声をかけた。
「ほの花、って誰?」
伊織の言葉にも返す余裕はない。
名前を呼んだ先にいた女は自分の名前に反応したのかくるりとこちらを振り向いた。
その瞬間、黒目がちの瞳にオレの姿を映して驚いたように固まった。
やっぱりほの花だった。
間違いようのない栗色の髪だと思ったが、周りをよく見れば栗色の髪なんていくらでもいて、何故髪色だけでほの花だと分かったのか自分でもわからなかった。
それでも振り返ったほの花を見てオレの胸は馬鹿みたいに高鳴って呼吸すら荒くなっていく。
ただ問題は呼び止めたのはいいが、何のために呼び止めたかは……
「……よ、よぉ。元気?」
「へ?!あ、…え、…と、は、はい。」
この会話で一目瞭然。
完全に見切り発車だった。
こんな人混みで姿を見つけたことでテンションが爆上がりして、うっかり呼び止めてしまったのだ。
その後のことを考えているわけがない。
目を彷徨わせてから何とか絞り出した言葉は何の変哲もない挨拶でほの花も困惑している様子だった。
しかし、オレはほの花の姿を視界に入れて満足していたのでうっかり忘れていたことがある。
「ねぇ、こちらの方は誰?」
そう、隣にいた伊織の存在だ。
ほの花に見せつけるように引っ付いてきた伊織の気持ちもわからなくはないが、人前でベタベタされるのはあまりすきではないため、ゆっくりと腕をはずした。
「…あ、ああ、この人薬剤師さん。よく行く薬局のさ。ほの花、悪ぃな。休みなのに。見たことある奴がいるなと思ってうっかり声かけちまった。」
「ねぇ、ちゃんと!私のことも!紹介してよ!!」
ほの花の言葉を聞く前に伊織が食い気味にそう言ってくるので仕方なく『この前言ってたオレの彼女…』と軽く紹介する。
いつもはド派手なオレが信じられないほど小さな声で。
それなのにニコッと笑って『こんにちは』と会釈するほの花に何だか不満が溜まった。