第49章 【番外編】色褪せない想い【現パロ】※
【あー、大丈夫。今から帰って早めに寝るわ】
恋人の伊織にそう返事をするとボーッとしたまま家に帰る。
帰宅途中、伊織からまた『ご飯作りに行こうか?』と連絡が来たけど、断った。
とてもじゃないがアイツと会う気分になれなかった。
アイツとは彼此一年半くらいの付き合い。
オレもアイツも25を超えたし、そろそろ結婚を考えてもいいかと思い始めた頃だった。
もちろんそのつもりだし、伊織も期待しているとは思うが、今思い浮かぶのは神楽ほの花というあの女の顔ばかり。
名前も知らないはずなのに…どこかで聞いたことがあるような…不思議な感覚だった。
あんな綺麗な女見たら絶対忘れない。
だから…恐らく会ったことはない、はずだ。
「……美人、だったなー…。」
だが、オレもまぁまぁ遊び歩いてきた男だ。
綺麗な女なら星の数ほど見てきたと言うのにほの花ほどドンピシャな女は見たことがなかった。
要するに…
「…どタイプなんだろうな…。」
そう、ほの花がオレのドンピシャでタイプだったのだろう。
来るもの拒まず、誰でも抱けると思っていたのに、こうも胸が高鳴る存在が現れてしまうと今まで抱いた女が霞んでしまう。
恋人がいると言うのにそれは流石にひどい仕打ちだ。
できればそんなことは忘れてしまいたい。
いや、忘れなければいけない。
結婚を考えていた恋人がいるのだ。
こんな感情は間違っている。
薬の調合書の薬剤師の欄には神楽ほの花の名前。
オレはそれを小さく折り畳んで財布の中にしまった。
どうすることもできないのにそんなものを大切に保管しようとしているなんていつからオレはド派手に女々しい男になったんだ。
それでもどうしても彼女を忘れることが出来なくて、製薬会社が出した定型の傷薬のはずなのに患部が温かく包まれたような感覚に陥った。
(…やっぱりどこかで会ったことあるのか?)
その日、オレは寝付くまでほの花のことが頭から離れなかった。
だが、一日寝れば翌日には忘れていると思いきや、翌日になっても、2日後も、3日後も…
オレの頭の中からほの花が消えることはなかった。