第49章 【番外編】色褪せない想い【現パロ】※
出会って数秒で彼氏がいるか聞くという暴挙をしでかしたのはあろうことか薬局。
目の前にいるのは薬剤師の女。
名札を見れば神楽ほの花という名前らしい。
だが、ナンパするにしても場所はおかしい。
なぜこんなところでナンパをするのだ。
頭がおかしいと思われても仕方がない。
彼氏がいるか聞いてしまったオレに対して咎めることもなく、にっこりと笑ったその女は困ったように眉をハの字にして口を開く。
「…はい。彼氏います。お大事になさってくださいね。宇髄さん。」
「…は?彼氏いんの?!何で?!」
「……え?な、何で、と申されましても…。」
「あー、ハイハイ。神楽さん狙いの男は多いですけど、お薬もらったらお引き取りくださいねー?」
後ろにいたババアの薬剤師がしゃしゃり出てくるとオレに向かって『早く帰れ』と言ってくる。
未だに落ち着かない胸の高鳴りに我を見失っていたが、確かにオレがおかしい。
目の前にいるのはたった今、出会ったばかりの女。
ナンパするにしても場をわきまえなければならないだろう。
何で彼氏がいるのだ?と凄んだとて、目の前にいる女は自分の恋人でもないのだからそれを咎めるのはおかしな話だ。
だが、咄嗟に出てしまったのだ。
意識なんてしてない。
無意識に言葉が出た。
そんなこと言ってもナンパしたには変わりないのだから頬を掻きながら謝って薬局を出た。
「……なーんであんなこと言っちまったんだろ。」
そりゃあ若い時はそれなりにナンパもしてきたけど、それは雰囲気に飲まれて友人とノリでやったこと。
その場限りのヤるためだけの女にすることであって、こんな風に自ら声をかけたのは生まれて初めてのことだった。
しかも、場所は薬局だ。
──ブーン
スマホが振動したことでもう一つの事実も思い出した。
【天元、火傷大丈夫?】
それは今、付き合っている恋人からの連絡だった。
そうだ、オレにだって彼女がいるくせに何を言っているのだろうか。
何であんなに引き寄せられるようにあの女をナンパしてしまったのだろうか。
その日は分からなかったことだったが、オレはその時の理由をのちのち知ることになる。