第9章 『実家に帰らせて頂きます』※
「…そういや、相談があるとか言ってたよな。何だった?悪かったな、抱いた後になっちまって。」
"そこの申し訳なさは感じるのか。
あんな性急に襲ってきたくせに。"
という心の中に浮かんだ苦言は口が裂けても言えないが、この幸せに微睡んだ空気の中で外泊したいということを簡単に言って退けるほどの度胸はない。
私だってこの腕に抱かれているときは幸せだし、ずっとここにいたいと願ってしまうものだ。
「…明日にします…。宇髄さん、怒るかもしれないし…。」
「…あ?怒るようなことしたのか?あー、てめぇ、やっぱり男と密会してたんじゃねぇだろうな。」
抱きしめていた腕を離して、急に覆いかぶさってきた彼に顔を引き攣らせた。
「ちょ、ちょっと…!待ってください!誤解です!そんなことしてませんからっ!落ち着いてください。」
そう否定しても訝しげにこちらを見てくるので尚も覆い被さっている彼の首に抱きついて「信じてください、宇髄さんだけです」と懇願した。
納得してるようでしていないのかもしれないが私の体を抱き締めると再び横になったが、顔は不満げだ。
せっかくのあの甘い微睡が様変わりしたことを残念に思うがこうなったら相談を今するしかない。
「…あの、西洋薬草が無くて…。」
「…あー、山にもなかったか。」
「はい。それで…宇髄さんにお願いがあって…。」
「却下。」
………え?!
まだ何も言っていないのに突然食い気味に"却下"と言い渡された私はポカンと彼の顔を見つめることしかできない。
「どうせどこかに行きたいから外泊許可くれとかそんなとこだろ?駄目だ。目の届く範囲にいろ。何かあったらどうすんだ。」
いや、凄い。
この人の洞察力は半端ない。
詳しくは知らないが、元忍びというだけはある。
派手な外見と違って緻密に下調べしたりして冷静な彼がとても聡明で好きだったからこう言うところも大好きなのだが…
いまはそれが物凄く足枷に感じた。