第47章 【番外編】貴方とならばどこへでも※
本当は大浴場は朝に行って欲しかった。
その方が人も少ないし、のんびり浸かれるからだ。
俺が此処までほの花に過保護なのはアイツが自分の思ってるよりもずっと魅力的な容姿をしているから。
異国の顔立ちのせいで目鼻立ちはくっきりしていてくるんと上向きのまつげに小さな顔に栗色の髪は艶艶だ。
父親譲りなのか瞳は黒目がちで日本人の可愛らしさと異国の色気を併せ持っているのでめちゃくちゃ目立つ。
しかも、浴衣の破壊力は抜群ときた。
今まで隣を陣取って誰かの目に触れようものなら威嚇し続けてきたと言うのに。
大浴場というのはなぜ男女別なのだ。
まぁ、混浴は混浴で困るが、ほの花が出るまで待っていたらそれはそれでアイツに怒られそうだし、早めに出て待っていれば良いだろう。
誰かに声をかけられるよりはマシだ。
どれだけオレが今まで大事に大事にしてきたと思ってるのだ。
せっかく出歩けるようになって楽しみにしていた旅行で他の男に声をかけられるなんていう腹立たしい事象は避けたい。
それなのに、どうやら俺は少しだけ遅かったらしい。
暖簾をくぐって廊下に出た途端、少し先に栗色の髪が見えたことに顔を緩ませたのは一瞬のこと。
その横にいた見知らぬ男の姿に拳を握りしめた。
漸く鬼のいぬ世になったと言うのに、久しぶりに鬼に向ける闘気を溢れ出した。
「誰だ、お前。」と、我ながら地を這うような恐ろしい声を向けるが、その男よりもほの花の方がビクンと肩を震わせた。
鍛錬をしてきたので、俺がいま全集中で音の呼吸を使う間際なのを悟っているのだろう。
ここで戦闘をしようなんざ考えていないが、大事にしてる自分の女に声をかけること自体万死に値するに決まっている。
「…ああ、お連れの方が来たんですね?残念です。」
「は?」
「あまりにお綺麗だったのでもう少しお話したかったです。」
「…あんだと?」
「て、天元!行こう!?ね?では、失礼します!!!」
ほの花が俺の腕を引っ張るので仕方なく、歩き出すが怒りは沸々と湧き上がる。
抜け抜けともっと話したかったなんてよく言えたな。アイツ….。
鬼ならば
いや、もっと極悪人ならばここで首を斬り落としても許されただろうか。
久しぶりに感じた怒りに奥歯を噛み締めることしかできなかった。