第47章 【番外編】貴方とならばどこへでも※
しかしながら、案の定天元はまだそこにはいない。
広い廊下を見渡せば、待合のような場所もあったので仕方なくそこで座って待つことにした。
熱った体を冷やすにはちょうど良い温度。
大好きな人を待つなんてなかなか嬉しいものだ。
思えば私は天元を待たせてばかりだった。
記憶を無くしてしまって、なおかつ体の調子も優れずにずっと看病させていた。
やりたいこともあったはずだけど、天元は辛抱強く私の世話をしてくれていたのだ。
こんな優しい旦那様がいるだろうか。
だからこんな少しの時間でも彼を待てることもまた嬉しかった。
にやけた顔で天元を待っていると、ふとそこに影ができた。
待人来たると思い、振り向いてみて固まってしまう。
そこにいたのは全く知らない男性だったから。
「こんばんは。」
「…え?と、…?こ、こんばんは。」
挨拶をされたので、返してみたけど、一体誰だろうか。
「お一人ですか?凄くお綺麗ですね。」
「え?!い、いや、ち、ちが…!ひ、ひとをまって、ます。」
ひどい。
ひどい有り様だ。
人に声をかけられてここまでしどろもどろになる奴がいるだろうか。
"お綺麗だ"なんて絶対にお世辞だと分かってはいても、少しだけ嬉しいと感じてしまうのは仕方ないと思う。
今、私は座っていて、彼は立っている。
要するに私の身長も分からないし、小さくて可愛らしい女性に見えたのだろう。
天元ほど美丈夫で話しやすい性格であれば分かるが、如何せん私は慣れていない。
こう言う時どうやって返したらいいのか分からず、下を向いて時を経つのを待つことしかできない。
「…?人を待ってるんですか?よければそれまでお話しませんか?」
「だ、だ、だいじょうぶ、です!ひとりで!ま、まってますので。」
彼の発言で漸くこの状況が非常にまずいことに気づく。
男の人と一緒にいるところを天元に見られでもしたらそれこそ…
「あ?誰だ、お前。」
…物凄い、怒られる気がしてならない、のだが、こう言う時、大体手遅れだったりする。
後ろを振り向けばその男性よりもはるかに大きい天元がこちらを見下ろして全集中していたのだから。
「っ、て、天元!」
「俺の女に何か用事か?あ?」
武器はなくとも、音の呼吸を使われたら此処が吹き飛ぶのは目に見えている。
私は慌てて天元を制止するため、立ち上がった。