第47章 【番外編】貴方とならばどこへでも※
「何分で出てくる?」
「えー?一時間くらい?」
「長ェだろ!逆上せるぞ。」
「えーー…じゃあ45分くらい?」
「…分かった。45分な。」
やっと大浴場に行くお許しが出てウキウキで来たわけだけど、天元はどことなく不穏な空気を醸し出している。
機嫌が悪い、わけではないけど、何だかソワソワしていて落ち着かない。
挙げ句の果てに「入るまでここで見てるから早く入れ」と言われても見送られる。
よく分からないことをしている彼に首を傾げるけど、私の頭の中は温泉のことで頭がいっぱい。
天元に手を振ると広い大浴場に胸を躍らせた。
部屋風呂の経験しかなかったので、入った瞬間に書いてあった決まり事を確認して、浴衣を脱ぎ捨てた。
実家のお風呂も、天元の家のお風呂も大きかったけど、大浴場とやらはやはり別格。
そう言えば刀鍛冶の里でも温泉には入らせてもらったけど、室内の大きなお風呂は初めてだった。
湯煙で白く染まっているそこは温泉の匂いがして温かい空気が私を包み込む。
「こんばんは。」
「あ、こんばんは。」
知らない女の人と挨拶を交わして、気づいた。
天元の言う通り、結構人がいることに。
芋洗い状態…とまではいかないが、出来たばかりの温泉宿だ。
人気なのは分かるが、夕食のすぐ後と言うのは天元の言う通り大浴場は満員御礼とでも言おうか。
あまりに多い人に1時間なんてここにいたら人酔いしてしまいそうだ。
(…というか、45分もいられないわ。)
いくら大きなお風呂といえど、こうひっきりなしに人が入ってこれば、入った人は早々に出ていくのもまた気遣いというものだろう。
私は天元に45分と行ってしまった手前、30分もは頑張ってそこで過ごしたが、人の数が減らなかったことで、早めに外に出ることにした。
脱衣所も人で溢れていたため仕方ないだろう。
天元も同じ状況なら早く出ているかも知れない。
そう思って、私は足早に大浴場を後にしたのだった。