第47章 【番外編】貴方とならばどこへでも※
新鮮なお造りに季節の焼き物。
お出汁がしみた炊き合わせに、小鍋に牛鍋まで付いてきて至福の夕食。
「はぁー!美味しかった!ご馳走様でした。」
楽しみにしていた夕食をお腹いっぱいに食べると私はタオルを持ち天元の浴衣を引っ張る。
旅行とはなんて贅沢なのだろうか。
準備も片付けも全部やってくれるし、この後お布団まで敷きにきてくれるなんて至れり尽くせりだ。
しかし、天元は顔を引き攣らせながら目を彷徨わせるだけで一向に動こうとしない。
「……何だよ。」
「温泉!行く!!いこー!」
「ちょっと待て。食ったばかりで風呂入ったら体に悪ぃだろうが。せめてあと半刻は待て。」
天元が言ってることはもっともだ。
私は医療者だし、彼の言ってることも理解できる。
でも…
「そんなこと言って、さっきは十五分待てって言ったじゃん。だから待ってたのに。」
そう。
実は夕飯を食べ終わったのは十五分前のこと。
天元が十五分待てと言うから待っていたのに次は半刻と言ってくる。
私の言葉にバツが悪そうに視線を彷徨わせる天元に口を尖らせた。
「…天元が行きたくないなら私一人で行ってくるから待ってて?」
「んなーー!?ちょ、ちょっと待て。行く!行くから…!ちょうど今混んでるかもしれねぇからよ。あと少しだけ待て。な?」
「そうなの…?あと少し…。分かった。」
如何せん私は温泉初心者。
天元は秘湯巡りが趣味なほど温泉好きなのだから彼の言ってることは本当なのだろう。
行き慣れてる天元からすれば部屋にお風呂がついてるから大浴場には行きたくないのかもしれないけど、私は経験値が少ないためどうしても大浴場に行ってみたかった。
時間さえずらせば行っても良いと言ってくれてるならば仕方ないと思い、天元の隣に腰を下ろすと彼に寄り添う。
「早く行きたいなぁ〜!温泉!温泉!」
「ほの花はもう部屋の風呂は入んねぇの?」
「明日の朝入る!!」
「お、いいね。じゃ、俺も…」
「一人で入る!!!」
「何でだよ!?」
天元と入りたくないわけじゃない。
そう言うわけではないけど……、明るいところで裸を見られるのは何年経っても恥ずかしいものなのだ。
だが、それを言っても天元にはきっと分かってもらえないだろう。
彼はいつだって恥ずかしげもなく私を愛してくれるから。