第47章 【番外編】貴方とならばどこへでも※
「ばぁーか。お前、そんなこと気にしてたのか。」
小さく縮こまるほの花は申し訳なさそうに俯いた。
確かにほの花はいま、あまり丈夫ではないし、気温の変化で一番最初に風邪をひく。
だが、前に比べたらその頻度は格段に減ったし、だいぶ良くなっている。
それを鑑みて誘ってみたのだが、どうやらほの花にとってみれば不安だらけのようだ。
「…だ、だって…。」
「そもそもさ、そこが間違ってるよな。」
「え?」
「熱出たらもう一泊すりゃぁいいじゃん。何を心配してんの?それに迷惑ってなんだよ。夫の俺に迷惑かけないで誰にかけんだよ。」
大体、人に迷惑かけるとか体裁をやたらと気にするのは昔からだが、鬼のいぬ世界でせっかく陽の当たる生活をできるようになったと言うのになかなかこの癖は直らない。
もちろん体調が安定しない自分にヤキモキしてしまう部分もあったのだろうが、誰もそんなことは気にしちゃァいない。
何なら他の人間に甘えられるより俺に甘えろと本気で思うし、ほの花に甘えられるのは正直嬉しい。
もっともっと甘えてくれたらいいといつも思うのだから。
「…そ、そりゃ、そうだけど…旅行行ってまで迷惑かけるのは申し訳ない、かな…と。」
「ンなこと言ってたらいつまで経っても旅行なんて行けやしねぇぞ。日常生活はもう普通に送れるんだからよ。違うことしていこうぜ。な?」
「……うん、そうかな?」
「おう。熱出したって良いんだって。前にお前の里に帰った時みてぇに時間に縛られてねぇんだからゆっくり行こうぜ?」
陰陽師の里に帰った時は俺が柱だったこともあって数日しか猶予がなかったが、今は違う。
時間ならある。
だけど、人はいつ死ぬか分からない。
俺たちだって今は生きていても明日突然死することだってあるかもしれない。
何があるか分からないからこそ、せっかく想いを伝え合った愛おしい女といろんなことを共有したかった。
小一時間ほどの説得の後、漸く首を縦に振ったほの花に俺は胸を撫で下ろした。