第46章 【番外編】束の間の休息を君と
一体これはどういう状況なのだ。
牛鍋屋さんに連れてきてもらったのはありがたいが、冨岡さんと二人きりにされるなんて誰が思うだろうか。
ほの花さんを抱えて外に出ていってしまった宇髄さんの後ろ姿をジト目で睨んでみたが、状況が変わることはない。
こちらもまたじーーーーーっという効果音が聴こえてきそうなほど見つめてくる冨岡さんにため息しかない。
「……あの、…いつ買ったんですか?」
「胡蝶が選んでる時だ。これを見て少しだけ表情が緩んだが、すぐに元に戻していたから気に入ったのだと思っていたが違ったか?」
「……よく見てましたね。」
冨岡さんの言っていることは本当だ。
確かにその簪を一目見て気に入った。
私とて年頃の女子だ。
それなりにお洒落に興味がないわけではない。ただ鬼殺隊として生きている以上、…そして自分が最終決戦に向けてやろうとしていることを考えるとそれを買う意味が見出せなくて購入に至らなかった。
だからそんなことを冨岡さんに見られていたなんて思いもしなかった。
「気に入っていたのなら良かった。もらってくれ。」
「…もらう理由がありません。」
「俺が付けても似合わないからだ。神楽に贈ったら俺は宇髄に本当に殺される…。」
最後だけ遠目でこちらを見ている宇髄さんたちをチラッと見てため息を吐いた冨岡さんに少し同情した。
宇髄さんのほの花さんへの執着心は異常だ。でも、それだけ愛している人と共にいられることは少しだけ羨ましい気もする。
宇髄さんからの報復の未来を想像して頭を悩ませている冨岡さんをみて私は一つ息を吐くと差し出されていたそれを受け取った。
「…では、頂きます。ありがとうございます。」
「!!…ああ。」
「気が向いたら付けても構わないんですよ?もし良ければ借りに来てください。」
「………遠慮しておこう。」
微妙な顔をしている冨岡さんに笑いが込み上げてきた。もらった簪を手に取ると髪に差し込んでみた。
「似合いますか?」
「ああ。似合うと思う。」
「…ありがとうございます。」
何故冨岡さんが贈り物をくれたのかは分からない。
でも、生まれて初めてもらった男性からの贈り物。何だか照れくさいような、いつもは少しだけ馬鹿にしがちな彼に対して違う感情が芽生えたような気もしないでもなかった。