第46章 【番外編】束の間の休息を君と
「はぁ〜!外の空気美味しかった〜!!」
「…おい、流石にわざとらしいぞ。」
「え…!?」
陰から二人の様子を見守っていたが、漸く和やかな雰囲気になったので、ほの花を連れて席に戻ってきた。
ただ明らかに挙動不審でぎこちない笑顔でわけのわからないことを言うので顔を引き攣らせたのは俺だけではない。
「お気遣い頂きまして。冨岡さんから頂戴しました。」
そう言った胡蝶の髪には彼女らしい簪が控えめに刺さっていて俺も顔を綻ばせる。
元柱仲間だ。
苦楽を共にしてきた。
たとえいっときだとしても幸せな時を過ごしてくれるならばそんな嬉しいことはない。
隻眼になり、まだ思うように戦えない俺は柱を引退してしまったから今後のことに口を挟むことはできない。
「しのぶさん!すっごく似合ってます!!!可愛いです!」
「ありがとうございます。ほの花さんもその花飾りよく似合ってますよ。」
「あったりまえだろ?この俺が選んだんだぞ?ほの花のことは誰よりもわかってるに決まってるぜ。」
「はいはい。わかりました。凄いですね。」
「はぁーん?!胡蝶、テメェ、馬鹿にしてるだろ?!?!」
「してませんしてません。」
でも、こうやってふざけ合うことが数ヶ月後にはできなくなるなんて思いもしなかった。
最後の戦闘の時も冨岡が贈った簪は手巾に包まれた状態で大切に胡蝶の懐に忍ばせていたようだった。
若くしてその身を鬼殺隊に捧げた胡蝶を俺は元仲間として誇りに思う。
数ヶ月後、鬼のいなくなった世界で生き残った俺たちができることはたった一つ。
亡くなった鬼殺隊士を忘れないでいること。
そして語り継いでいくこと。
胡蝶が最後まで大切にしていた簪は今、冨岡が持っている。
きっと胡蝶との思い出と共に人生を全うするだろう。
無駄な死など一つもない。
俺たちは"今"を懸命に生きてきた。
柔らかな風と共に束の間の休息が訪れる。
その世界がどこであろうと隊士たちに安らかなる時を平等に与えるはずだ。
願わくば、来世では若くして責務を全うした隊士たちが末永く人生を謳歌できることを切に願う。