第46章 【番外編】束の間の休息を君と
ぐつぐつと煮える牛肉が赤から茶色く変化すると共に醤油と砂糖の甘辛い匂いが辺りに充満して思わず顔を綻ばせてしまう。
美味しいものはいつだって人間を幸福にしてくれるものだ。
「ふぁ〜…美味しそう〜…!」
あまりの光景に漏れ出る言葉はため息を含めてしまうほど。
隣にいる天元を見上げると頭を撫でてくれるので嬉しくてますます目尻が下がってしまう。
「まぁ、待て。あと少しで煮えるからよ。たんと食え。そんでもってちったぁ太れ。元師匠命令だ。」
「それって効力あるの?元師匠命令って…。」
「うるせえな。食って太ってくれりゃあなんでも良いんだわ。」
天元はいまの私の体型が気に入らないようでツンと額を小突いてきた。
「あでっ…!」と声をあげればそのあとすぐに頭を撫でてくれるので結局は優しい天元だけど、不満に思ってる理由が分からないわけではない。
体調が思わしくなくて鬼殺隊を辞めざるを得なくなって、活動量も減ったが、それと同時に食事量も減った。
もちろん起き上がれなくて食べれない時期もあったが、眠くて眠くて仕方なくて食べ損ねることも多かった。
天元が何回も起こしてくれてるのも知っているが眠気に勝てないのだ。
それもこれも体力が赤子レベルに落ちていることが原因だ。
少し動くだけで疲れて昼寝をしないといけなかったあの時は本当に毎日毎日天元を含め同居してる六人にも迷惑をかけた。
漸くこうやって出歩けるようになったけど、今日だって帰れば少しばかり昼寝したくなってしまうだろう。
私の活動時間は極端に短いのだ。
「ほの花さんは元々華奢でしたからね。少し食べれなくなると途端に痩せてしまうのは当たり前です。今回ばかりは宇髄さんに賛同しますよ。たくさん食べて体力をつけましょう。」
"頑張りましょう!"と拳を握りしめるしのぶさんだってやはり顔色が悪い気がする。
私は大きく頷くと、目の前のしのぶさんを見て手を握った。
「…そうですね!しのぶさんもたくさん食べてください!天元の奢りなので!!ここぞとばかりに!!」
「ふふ!そうですね!」
「おい、お前らな…俺がケチでないことを良いことによぉ…。まぁ、いいけど。」
穏やかな日々は心地がいい。
こんな日々がずっと続けばいいのに…。