第46章 【番外編】束の間の休息を君と
「肉食いに行くぞ。」
そう言われたのは今朝のこと。
記憶を取り戻してからもなかなか体調が安定しなくて、天元にお世話になっていたけど、やっと元の生活に近い状態になりつつあった。
それでも少し疲れたりすれば翌日の朝疲労で起きれなかったり、下手したら発熱してしまうのは最早"仕方ない"と諦めの境地だ。
昔に比べると夜の情交も減ってしまったけど、それは天元が私の体を心配してくれているから。
その分、毎日天元がそばにいて、優しく触れ合える時間は私にとって最高の贅沢だった。
だけど、夜の情交をすれば必然的に体を重ねるわけで、体の大きな天元が覆い被さる度に『折れちまいそうで怖ぇな。』と言っていたのは記憶に新しい。
そう言われれば、確かに体は一回り小さくなった気もしないでもない。
それと同時に筋肉が落ちているのだろうから仕方ないだろう。
だから彼の朝の発言は納得せざるを得ないし、牛鍋自体は美味しいし、好きだったので連れて行ってくれると言うならばお言葉に甘えようと思った次第だ。
天元とのお出かけとならば…!と腕によりをかけてピカピカに綺麗にしてくれる姉のような三人がいるので、今の私はいつもよりは綺麗にめかしこまれている。
好きな人とならば、共に歩くだけでも楽しいと言うのは本当で、天元と手を繋いで歩いているだけで気持ちは晴れやかだ。
まだ志半ばだということを忘れてしまいそうなほど。
そんな時、天元が足を止めて声をかけた人物に目を見開いた。
そこにいたのは大好きなしのぶさん……と、あまり面識はないが、炭治郎の命の恩人だと言う冨岡さんだった。
珍しい組み合わせだが、昔に天元が『冨岡は胡蝶が好きらしい』と言っていたのを急に思い出して、一人顔が熱くなった。
私だったら恋仲ではない想い人が近くにいるだけでドキドキするし、絶対に赤面するに決まっているのだから。
冨岡さんもきっとドキドキしているのだろうなぁとチラッと彼を見てみるが、全く表情の変化が見られないことで私は首を傾げた。
(…顔にあんまり出ないのかな?羨ましい〜…)
考えがすぐに顔に出てしまう私からしたら、隠せることができること自体が羨望の眼差しだ。