第43章 【番外編】ここに、いるよ。
──妊娠してんじゃねぇの?
それはまさかかと思うほどのこと。
だってついさっきまで天元に抱いてもらえないことで泣きそうになっていたというのに。
その言葉を聞いてもなかなかキョトンとしてしまったけど、天元の言葉を聞けば聞くほど納得せざるを得なくてニヤける顔を抑えることができずに頬に手を添えた。
「…ほんと…?」
「──だと、俺は思ってたけど?だからお前を抱くのを一旦やめてた。ほの花から『デキたみたい♡』報告を受けるの楽しみにしてたのによ〜。気づかないとかあるかよ。」
ハァ…と呆れ気味にため息を吐く天元だけどその顔はとても優しい。
彼が呆れるのも無理はない。
私は自分の体のことなのに全然分かってない上に、薬師でもあるのに何をしているのだろうか。
経口避妊薬をやめてから月のモノが割と不順だったこともあるし、あの体調不良の時期もあったため妊娠を疑うことはなかった。
それに…
「…でも、気持ち悪くないよ?」
そう。雛ちゃんは妊娠初期の時、気持ち悪さから寝ていることが多くて、私が妊娠中でも飲める栄養剤とかを作って飲んでもらっていたほど。
それなのに私は眠いだけでちっとも気持ち悪さはない。
「まぁ、時期的な問題もあるかもしれねぇぜ?もう少し後に悪阻が来るかもしれないから体大事にしろよ。」
「…そ、そっか。うん。…わかった。」
妊娠の仕組みもその時に使って良い薬のことも全て母に聞いて知っているのに、今のわたしは物凄く役立たずだと思う。
知っている知識が全く出てこない。
それほど驚いている。
妊娠したいと熱望していたのに、実際には既に妊娠していたのだから当たり前だ。
「…天元。」
やれやれと言いながら夜着を治す彼に声をかけてみる。
結婚してからもする前も天元はいつだって優しかった。
今もそれは変わらない。
そんな彼との子どもを身籠ったと言うならばそんなに嬉しいことはない。
「…ここに、いるんだ。」
「ああ。そうだな。」
「…ここに、いるね…っ?」
「ああ。ほの花…愛してる。」
大好きな人との子どもがお腹にいる喜びを実感してしまうと私の目から涙が溢れ出た。
天元の大きな胸に飛び込むと力いっぱい抱きついた。