第43章 【番外編】ここに、いるよ。
「…続き、ねぇ…。」
でも、天元の顔は浮かない。
私が珍しく懇願しているのに、一つため息を吐くと頭を掻き困った顔を浮かべるだけ。
確かに私が無理矢理口淫したし、そこに彼の意志はなかったかもしれない。
だとしても夫婦なのだからそう言う行為が全く無いなんて嫌なのだ。
体調が悪いならば分かる。
ただ眠かっただけなのにそんなことで抱いてもらえないなんてどうしても腑に落ちないのだ。
「…だめ、なの…?私のこと、嫌いに…なっちゃった?もう女として見れないの?」
絞り出す声は震えてしまって、喉がきゅっと締まるのがわかる。
天元の顔を見ていられなくて下を向くと唇を噛み締めた。
しかし、辛辣な言葉が返ってくると思いきや、返ってきたのは大きな手のひら。
あったかくて大好きなそれが頭に乗せられると苦笑いの天元がこちらに優しい視線を向けてくれている。
「あのなぁ…ンなわけねぇだろうが。馬鹿なのか?俺はお前以外興味ねぇし、毎日毎日ほの花で抜けるぜ?舐めんなよ。」
「…なら、何で最近抱いてくれないの…?眠いだけなのに…。」
「眠いだけじゃねぇだろ?たまーにフラついてんじゃん?ボーッとしてることも多いしよ。」
それは正論だった。
でも、目眩とかそう言うレベルのものじゃない。ただフラついただけで、その後体調崩すとかじゃない。ボーッとしてるのも眠いから。
「でも…今日は絶対大丈夫だもん。」
「あー…うん。そうかもしれねぇけど…よ。」
どれだけ言っても天元は首を縦に振らない。
嫌いなわけじゃないというのは分かったけど、どれだけ私のことを考えてくれていても私の望んでることではない。
私は今、天元に抱かれたいのに。
一方通行な想いが苦しくて、目に涙が溜まってきてしまうと、慌てたように天元が私の肩に手を乗せて『わかった!わかったから…』と目尻を下げた。
「…はっきり言うわ。」
「…何を…?」
突然、真剣な顔をしたかと思うと私の頬に手を添えた天元がゆっくりと話し出す。
「…ほの花さ、月のモノ来てるか?」
「………はい?」
──かと思えば聞かれた内容に眉間に皺を寄せたのは私の方。
だけど、次の言葉で深く刻まれたそれがすぐに解放される。
「…お前さ、妊娠してんじゃねぇの?」
それが思いもしない言葉だったから。