第43章 【番外編】ここに、いるよ。
「…良かった、真雪ちゃん落とさずに済んだ…」
間一髪、可愛い乳飲み子を落とさずに済んだことに安堵すると縁側に背中をもたれさせたまま空を見上げた。
変わらず腕の中には"あぅあぅ"とご機嫌な様子で何かお喋りをしている真雪ちゃんの姿にホッと一息ついた。
体を少し動かしてみると何とか頭のふらつきは軽減したようなのでよじ登るようにして縁側に手をかけると、後ろから聴き覚えのある声が降ってきた。
「何してんの?ほの花。」
「あ…天元!!良かったぁ!ねぇ、真雪ちゃん抱っこしてくれない?」
「は?お、ちび、いたのか。」
私の体で見えなかった真雪ちゃんの姿を見るや否やニヤけた顔になる天元ももう叔父バカだと思う。
私から真雪ちゃんを受け取ると軽々と抱き上げた。
その隙に立ち上がると大きく体を動かしてみたりして状態を自己確認してみる。
「??どうした?何してんの?」
「あ…あのね…」
天元にこんなこと言ってしまうと布団をぐるぐる巻きにされて寝室に押し込まれるのが関の山。
せっかく真雪ちゃんとお留守番していたのに楽しみを奪われるのは嫌だ。
だが、隠していると余計に後からお説教を喰らうだけ。
私は大きくため息を吐くと、天元を見上げる。
「ちょっと、目眩がして…。」
「は?おいおい、大丈夫か?布団敷いてやるよ。」
「あ、で、でも…!もう大丈夫なの。本当に!一瞬だけ。ここで大人しくしてるから!ね?お願い。」
必死に懇願すると、天元は片手で真雪ちゃんを抱えて、私の額に手を添えた。
熱の有無を確認してくれてるんだろうけど、体は熱くないし、本当に大丈夫なのだから是非ともご理解賜りたい…。
「んー…まぁ、熱はなさそうだけどよ。」
「でしょ?でしょ?!私、まだ真雪ちゃんと遊びたい…!」
「落とすといけねぇから此処でな?」
「うん!分かった!」
そう言うと縁側に敷いてあったお包みの上に真雪ちゃんを横たえてくれる。
大好きな真雪ちゃんを見ながら、天元と他愛もない話をする。
そんな絵に描いたような幸せが訪れるなんて想像もしていなかった。
本当は大好きな人との子どもが欲しい。
でも、そんな願いを噤んでも今の幸せを失いたくないという悪いところが顔を出してしまう。
そんな臆病な私は好きじゃない。