第43章 【番外編】ここに、いるよ。
"あぅ、あぅー"と可愛い声をあげる真雪ちゃんを抱き上げるとまだ仄かに寒い縁側が温かく感じた。
「今、お乳をあげたところだから暫くはご機嫌だと思うけど、おしめとかもお願いしていいかな?」
「もっちろーん!任せて!やり方はちゃんと琥太郎くんのお母さんに習ったから!」
雛ちゃんが出産する前もした後も一番頼りになったのは近くに住んでいる琥太郎くんのお母さんだ。
すっかり体も良くなって定食屋さんで働いている。
報告がてら会いに行って、雛ちゃんが妊娠したことを伝えると何度も足を運んで手伝ってくれるようになった。
もちろん同居している家族も全員指導を受けたわけで私だけでなく天元までバッチリだ。
『いってらっしゃーい』と正宗と雛ちゃんに向けて真雪ちゃんの手を持ち振ってみると、すっかりお父さんとお母さんの顔をした二人が優しい眼差しを向けていた。
最終決戦から二年が経とうとしていた。
私の体も今年に入ってからだいぶ良くなって、熱を出すことはほとんど無くなっていた。
そろそろ…私も天元との子が欲しいなぁ…なんて思い始めていたところに雛ちゃんの出産があって益々羨ましくなる。
本当はもっと早くに天元は子どもが欲しかったんだと思う。
それなのに私の体のことを第一に考えて夜の営みの際も必ず避妊してくれていた。
自分のためだと分かっている以上、"もう避妊しないで"なんて言えなかったけど、本当はずっと言いたかった。
申し訳ないのはそれだけじゃない。
せっかくおめでたい出来事なのに正宗と雛ちゃんが妊娠した時に物凄く言いにくそうに言ってきたのは今でも忘れられない。
「ほの花ちゃんが療養中なのに…」って顔を下に向けた雛ちゃんに申し訳なくて思わず抱きしめてしまったほど。
だからこそ真雪ちゃんのことが可愛くて仕方ないし、姪っ子だと思って子育てに参加している(つもり)
暖かい陽射しが差し込む庭を二人で歩いているとほんの少し目が眩む。
(…あ、久しぶりに目眩、かな…)
でも、今は真雪ちゃんが腕の中にいる。
慌てて縁側までふらつきながら戻るが、腰掛けるまで持たずにズルズルとそこを背もたれにして座り込んだ。