第42章 【番外編】過去との決別
せっかく和解(?)したような状況になったと言うのに天元と天承さんは先ほどからずっと言い合いを続けていて、今は冷戦状態。
後ろから私のことを抱きしめながら蛇とマングースのように睨み合いを続ける彼らを横目に私は玄信さんに袋を渡す。
「えと、玄信さん。こちら当分のお薬です。飲んでも完全には治りません。付き合っていく病気だと思ってください。なので今後のお薬は送らせて頂きますね。」
「分かった。世話かけたな。」
「いえ。何か体調に変化等あればいつでもご連絡下さい。ただ急を要する場合は近くのお医者様にかかられてくださいね。」
「善処しよう。」
穏やかな表情で私を見てくれるその姿に最初の雰囲気はない。
でも…かと言って今の状況になったのは運が良かったとしか言えない。
不思議なのはあの夢だ。
夢だと言うことにしなければ説明がつかないけど、あの夢を見た後に天承さんの態度が変わって、同じく玄信さんに渡した薬も効いてくれていた。
全て運がよかった。
だから今のこの状況がある。
睨み合いを続ける天元と天承さんも、ずっと喧嘩しているのはつらいものがあるけど、最初来た時のような殺し合いに発展しそうなほどの空気感はない。
普通の兄弟のように喧嘩をする姿は本来あるべき姿とも思う。
此処で弟妹さんが亡くなった事実は変えられないし、天元がずっと苦しんできたのも事実。
この二人が元凶なのも分かっている。
でも、だからといってずっと取り憑かれたようにお互いを敵視する必要はないように思う。
きっとこの人たちはこれからもずっとこんな感じで過ごしていくのだと思う。
それでも事実として、病気が改善した玄信さんを見て、天承さんから「兄貴」と呼ばれて少しだけ嬉しそうな表情をした天元がいたのもまた事実なのだ。
仲良くならなくてもいい。
ただ家族である限り、ほんの少しでも頭の片隅にお互いがいることを咎める人は誰もいないと思う。
そんな関係性でもいい。
それが宇髄家の絶妙な距離感なのかもしれないから。
だとしたら新しく宇髄家に加わる私がそんな彼らを見守る役目になりたいと心から思った。