第42章 【番外編】過去との決別
全て親が道を用意してくれていた。
そこに乗っていれば楽だったし、父親のやり方に何の文句もなかった。
ただ一つ、長男ではなく俺を後継者にすれば良いのにと思ったこと以外は。
しかし、それも口に出すことはなかった。
忍びである以上、いつ死ぬか分からないし、未来のことを考えることは無駄なことだと思っていたからだ。
許嫁も決められて、ただ何の感情もなく夫婦となり、子孫を作る。
そんな当たり前の道を歩んでいく。
それなのに兄貴は里を勝手に抜けたと思えば、別の結婚相手を連れてきた。
そしてその女が馬鹿みたいに兄貴のことを愛していることが一瞬で見てとれたのがどうしようもないほど胸が苦しかった。
何故だ?
何故こんなにも腹が立って、胸が苦しくなるのだ?
「生きてるなら…分かり合えずとも喧嘩をすべきだよ。本音でぶつかり合えば…お互いの真意が見えてくることもある。」
俺に痛めつけられながらもそう言ってニコニコと笑うほの花に益々心がかき乱された。
何故だ
何故だ
何故だ
何故そんなに楽しそうなんだ
何故そんなにも兄貴を一途に想えるのだ
何故俺たちをそんな風に暖かく見てくるのだ
何故そんな風に笑ってくれる
どうしたら俺にもそうやって笑ってくれる?
どうしたら俺も愛される?
ああ……そうか。
お前は…、あのほの花なんだな?
目の前で泣き出したほの花を見て俺は全てを悟った。
あの言葉は此処にいるガキの俺たちに向けたものじゃない。
"今"の俺たちにも向けたもの。
神のみぞ知ることのはずだった。
此処にほの花がいることも。
俺が夢を見たことも。
でも、確かなことは三つ。
ほの花は"ただ兄貴を愛してるだけ"ということ。
俺はそんな兄貴が羨ましいと思っていたこと。
そして…俺もあんな風に愛されたいと思っていたと言うこと。
何故だと考えれば考えるほど分からなくなっていたのに答えは目の前にあった。
そこにいるガキの俺たちは分からないだろう。
でも、俺には分かった。
あの涙が兄貴を想って泣いていたと言うことを。
此処にいる理由は分からない。
同じ夢を見ているのかもしれない。
ただあの時、少しだけほの花を抱きしめたいと思ってしまったのもまた事実なのだ。