第42章 【番外編】過去との決別
しかし、自分の夢ということは自分自身の考え方の差異はない。
案の定、翌日兄貴の後を追ったことで、ブレない自分に少し安心した。
それなのに…
兄貴の後をついて行ったところにいた人物に俺は目を見開いた。
(…何故…あの女が…?!)
そこにいたのはガキの頃の兄貴とほの花とかいう連れてきた嫁だった。
知り合いだったというのか?
昔会ったことのあった女?
いや、違う。
兄貴もあの女もそんなこと一言も言っていなかった。
そもそももしそうだとしたら、女と言うのは運命論が好きそうだ。
一目散に俺に言ってきそうなものだ。
しかも、一番おかしいと感じたのは、目の前にいる兄貴も俺自身もガキの頃の出立ちなのに、あの女だけは今の姿だったことだ。
どう考えてもガキの俺たちからすれば年上だ。
この時分に会っていたとしたらあの女は一体どんな年増なのだ?
何もかもが知恵の輪のように絡まって上手く思考が追いついてこない。
あの女は一体誰で、何故此処にいるのか。
分からない。
だが、翌日俺はその理由を少しだけ知ることになった。
俺は前日にほの花と兄貴の密会を見つけた場所に一人向かえば、のんきに散歩している女を見つけたのだ。
恐らく、兄貴を誑かした女だと思っているのだろう。
今も昔も思うことは同じだ。
ほの花と言う女がおかしな魔術でも使えて、この時代に来て兄貴を懐柔でもしたか?
薬師だと言っていたが、ひょっとしたら怪しい術まで使えるのかもしれない。
案の定、すでに懐柔されていたのか兄貴がほの花を庇いに来たことで俺はため息を吐いた。
こんな女のどこが良いのか分からない。
怪しい術で此処にやってきて、薬でまたも兄貴を懐柔したならばとんだ悪女だ。
そう思ったのに俺がどれほど脅しても、どれほど痛めつけてもその真っ直ぐな瞳がブレることはなかった。
誰かを見ているようで既視感を感じたのは俺だけではなく、ガキの俺も同じだろう。
どんな時でも飄々として掴みどころのないところが兄貴にすごく似ていた気がしたから。
この女が嫌いだと感じたのはそのせいだったのか。
苦手意識、嫌悪感を抱いていた兄貴に似たところがあって、尚且つ暖簾に腕押しの如く底抜けに優しい笑顔を向けてくるその女に胸が苦しくなった。