第42章 【番外編】過去との決別
──夢を見た。
首領まで腑抜けに成り下がり、自由に生きろと言われ、混乱する頭で眠りにつけば普段は見ない夢。
夢と分かったのは隣にいたのがガキの頃の兄貴がいたからだった。
あの頃から兄貴はどことなく今の生活に疑問を抱いていたように思う。
事あるごとに首領と言い争い、折檻を受けるのをよく見ていた。
それでも翌日にはケロッとして他の弟妹達と談笑しているのをみるのが憂鬱だった。
何故あんな男が長男なのだ。
俺の方がよっぽど首領の考えを理解して、忍して正しい行いができると言うのに。
次男だったと言うだけで期待されるのは兄貴ばかり。
期待されていないがためにいくら首領の考えに同意を示したところで、言うことを聞かない長男に気を揉む父親の姿に悔しい思いをしていた。
(…あの頃の夢など何故…?)
夢に疑問を抱いたところでその理由など誰にも分かるわけがない。
分かるとすれば神のみぞ知ると言ったところだろう。
「兄貴、何処へ行く?」
自分の意思と関係なく、俺の口が勝手に隣にいた兄貴に声をかければ『野暮用だ。』とだけ言い、ニカッと笑って去って行く。
その後ろ姿はどことなく楽しげだ。
兄貴はいつも弟妹達にも好かれていて、強さも申し分ない。
考え方さえ改めれば、確かに俺が敵うところは少ないだろう。
しかし、掴みどころない飄々とした兄貴が楽しそうに任務に出かけることなどほとんどなかったし、出かけるならば許嫁の誰か、もしくは弟妹がいてもいいのに、一人で向かうその姿に疑問に感じた。
「…どこに行くと言うんだ。」
再び、俺が俺の意思とは関係なく、そう口走った事で状況を悟った。
そうか。俺は俺自身の夢を見ているのだ。
しかし、自分の頭の中に目の前の情景は覚えていないもの。
思い出の中にないことだったのだ。
(…いつのことだ?思い出せない。)
忘れっぽくはない。
感情の起伏があまり起こらない俺にとって毎日は平坦の道のようなものだ。
だからこそちょっとした出来事は覚えていることが多いというのに…
目の前に起こっていることにはほんの少しも記憶がないのだ。
まるで別の世界線の出来事のようにも感じた。
不思議な感覚だった。