第42章 【番外編】過去との決別
ほの花と言う女が脳震盪で倒れたことでもう一つ驚くことがあった。
確かに此処に来た時からあの女をやたらと心配しているようだったが、倒れた瞬間、俺を殺す勢いで突っかかってきたこと。
そして、もう一つは目覚めぬその女に付きっきりで看病をしていたことだった。
昔から自分の許嫁にもよく分からない優しさを見せてはいた。
俺には理解できない振る舞いだった。
女は子さえ産めればいいはずなのに、あの男は許嫁達と楽しそうに笑っていた。
何のために?
何が目的だ?
俺には全く分からなかったその理由。
考え方の違いがあるのは理解していたし、だからあの男は里を抜けたのだろうと簡単に予想がついた。
しかし、まだその時の許嫁達はくのいちで健康な女達。
今回連れてきた女とはわけが違う。
それなのに見たこともないような優しい顔をしてその女を見つめるあの男に虫唾が走った。
あの女が脳震盪で倒れた後、すぐに目が覚めるだろうと思いきや、
一日、また一日と経ち、
気付けば三日が経っていた。
どうでもいいことだったし、あんな女が死のうが生きようが知ったことではない筈なのに、何の偶然か、体調の悪かった父親が少しずつ元気になってきたのだ。
今まで看護の領域だけはきちんとしていたのに、此処まで改善することはなかった。
最近変えたことといえば、あの女が調合した薬を飲ませたことだけ。
(…薬、か。)
毒ではないというのは明白だったが、弱くて役に立たなさそうな女だ。
正直、薬の効果など期待してもいなかった。
少しくらい良くなれば良い方だと思っていたのに父親は日を追うごとに良くなっていき、三日目には立って歩けるまでになっていた。
意識がしっかりしてくると、久しぶりに首領らしい姿の父親が俺を真っ直ぐに射抜く。
「天承、薬を作ったとか言う天元の女は?」
「…脳震盪起こして三日間意識不明だ。」
「…そうか。意識を取り戻した時のために何か食べられそうなものを持っていってやれ。」
「……?!……分かった。」
首領は人に情けなどかけない。
宇髄家が繁栄してきたのはそう言う人間が受け継いできたからだ。
それなのに目の前にいる首領からは以前ほど研ぎ澄まされた刃のような空気は感じない。
それはまるで、一つの時代が終わろうとしているようにも感じられた。