第42章 【番外編】過去との決別
里を抜けたアイツが連れてきた奴はわけのわからない女だった。
どう見ても弱そうなのに、そんな女を見たこともない表情で笑いかけるあの男に衝撃が走った。
兄弟でも相容れないあの男と俺。
たかだか妹弟を殺したことくらいで里を抜けた軟弱な兄の姿に反吐が出た。しかし、程なくして親父が体調を崩して、宇髄家はあっという間に衰退した。
恨む気持ちしかなかった。
二度と顔も見たくない。会いたくない。
会ったら殺したくなるから。
それなのにアイツはノコノコ帰ってきた。
雛鶴でもまきをでも須磨でもない女を連れて。
会った瞬間、女もろとも殺そうと思った。
それをしなかったのはたった一つ。
その女が薬師だと言うからだ。
何の取り柄もなさそうな女だったが、それだけで少し興味が出た。首領である親父の体調は悪化の一途を辿っていたが、死んだら俺が跡を継ぐと思っていたので、後継に問題はない。
それでもあの女を利用しようと思ったのは、今の廃れ切ったこの里で首領を失うと言うことは士気が下がるからだ。
全快してから跡を引き継ぐ方が宇髄家にとって遥かに良いと考えた。
だからあの女を利用することにした。
しかし、聞けば聞くほど、何故あの三人を捨てこの女を選んだのか分からないほど理由が見つからない。
戦えない。
体も弱い。
今の体調だと子も産めない。
唯一良いのは容姿くらいだ。
だが、容姿などただの造形だ。そんなもの何の役にも立たない。
何のために嫁にすると言うのだ。
挨拶に来た、だ?
どのツラ下げて来たかと思えば、史上最低な女を紹介しに来たなんてあの男の頭がおかしくなったと思っても仕方がない。
軟弱な女の性質が移ったのか?
元々相容れない男だとしても、かくも軟弱な男だったとは──
血のつながった兄だと言うことが恥ずかしいほどだった。
薬師としてはまともそうだったが、気に入らないことには変わらない。
少し脅してやろうと思い、話してやったら馬鹿なあの女が頭を打って脳震盪で倒れた。
あまりの弱さに顔を引き攣らせることしかできない。
それなのにあの男が見たこともないほどの怒りを俺に向けて来たことでまた分からなくなった。
──あの女にどれほどの価値があると言うのか。
俺には理解できなかった。