第42章 【番外編】過去との決別
「ア、イヤ、ソノ…、スミマセン…デシタ。テンショウサン…。」
「お前のそのカタコトな喋り方こそ一体何だ。ほの花、大丈夫かよ。」
隣にいる天元が心配そうに顔を覗き込んでくるが、私の視界には怪訝そうな顔をしてこちらを睨んでくる天承くんで頭がいっぱい。
どうしよう、謝ったけど。
きっと怒ってる。
馴れ馴れしく接したせいできっと私は追い出されるのではないかと言う恐怖感に襲われた。
しかし、蛇に睨まれたように固まった私にかけてくれた声は思いの外優しいものだった。
「…何故、その果実をお前に持ってきたと分かった。」
天承"さん"は少しだけ前に歩み寄ると、私にそう質問した。
夢の内容を言ったら信じてくれるだろうか。
声色は優しくても、視線は変わらないのだから私のことを許したわけではないだろう。
考えていても仕方がないことだ。
私は心配そうに顔を覗き込んでくれていた天元の手を取るとぎゅっと握りしめて天承さんを見た。
「あ、あの…夢の、中で…天承さんが私に下さったものと同じだったので…、夢と現実がごっちゃになってしまったようでして…」
「…夢、だと?」
「す、スミマセン…!勝手に夢なんて見て…、あ、でも…!全然、私嫌われてて!好かれてなんてなかったけど、ただ…最後に蜜柑と柿をくれて…嬉しかったので…ま、舞い上がってしまいました…」
最後らへんは消え入りそうなほど小さな声でしか紡げなかった。
ただでさえ嫌われているのにいきなり馴れ馴れしくされたかと思ったら、夢の中と間違えていたなんて滑稽だ。
隣にいてくれる天元は優しい目でこちらを見てくれているけど、後ろにいる彼の視線は変わらないように見えた。
「……父親の…首領の体調が改善してきた。あんたの薬の効果、だと思う。」
「え…?あ、よ、良かったです…。」
「飲まず食わずで三日経ってる。兄貴にそれでも食わせてもらえ。後で粥を持ってきてやる。」
──"兄貴"
その言葉に驚いたのは私だけではない。
隣にいた天元までもが後ろを振り返り、天承さんを見遣った。
しかし、顔を隠すように後ろを向いてしまった彼の表情は窺い知れない。
ただ一つわかるのは天元が嬉しそうだったってことだけ。