第42章 【番外編】過去との決別
帰ってこれたことを喜び、目の前にいるのが大好きな"天元"だと分かるとホッとして目から涙が溢れ出た。
何日眠っていたのかわからないけど、天元のこの憔悴ぶりを見るとかなり寝ていたのかもしれない。
私だって久しぶりに会えたことが嬉しくて脇目も振らずに泣き喚いてしまった。
「…っひ、っく…、天元、っ、会いたかった…!」
「あ?いや、お、おお…。俺も会いたかった…つーか、居たけどよ、お前ずっと此処に目覚さなかっただけで。」
「天元くんも優しかったけど、やっぱり今の天元がいいーーーー!!」
「はぁ?つーか、お前夢で誰かと浮気でもしてたのか?!」
そりゃあそうだ。
天元からしたら私の会話は意味不明の支離滅裂。
しかし、それに気づいたのは天元から発せられる痛いほどの負のオーラを目の当たりした時。
「浮気なんてしてないもん。むしろ天元一筋だよ!失礼しちゃうよ!!」
「???そうか?まぁ、浮気、してねぇんならいいんだけどさ。まぁ、それより体調はどうだ?」
穴が開くんじゃないかと思うほどの鋭い視線で見られていたと言うのに、すぐに優しい雰囲気になる天元に思わず目尻が下がった。
余程わたしは心配をかけたのだろう。
私はゆっくりと起き上がると、安心させるように拳を握りぶんぶん振り回し、「元気だよ!」と言って見せた。
しかし、起き上がった瞬間に目に飛び込んできた物に目を奪われると再び天元を固まらせてしまうことになる。
「あ!蜜柑と柿!そうだった…!天承くん!ありがとう。凄く美味しかったです。私、甘い物大好きだから凄く嬉しかっ…た…あれ?」
言い終えて漸く気づいたのは、その蜜柑と柿が切られたものではないこと。
そのままの状態でコロコロと床に転がっていた。
私は確か間違いなく食べていた。
美味しく頂戴したのにいま目の前にあるのは手をつけられていないもの。
そして恐る恐る見上げた天承くんの顔が訝しげに私を見下ろしていて、完全にやらかしたことを悟ったのだ。
(…や、やば…!ごっちゃになってた…!!)
そう。
私は先ほどまで飛ばされていた世界のことと現実とが混ざって、目の前にいる天承"さん"をうっかり少年扱いしてしまっていた。
そのせいでこの部屋の空気は地獄の沙汰になったのは言うまでもない。