第42章 【番外編】過去との決別
今日は天元くんと天承くんが二人で会いにきてくれる。
蜜柑と柿のお礼を言わなければ!と朝から意気込んでいた。
しかし、食べ始めた頃視界がぐにゃりと曲がったのだ。
(…目眩?)
咄嗟に床に手をつこうとしたが、そこに床の感覚はなかった。
沈むような自分の体に衝撃を覚悟して目を瞑った。
それなのに体への痛みはいつになっても来ない。
真綿に包まれるようなふわふわとした感触が気持ち良くて身を委ねていると誰かの話し声が聴こえてきた。
遠くの方だけど聴こえてくるその声は天元くんと天承くんな気がした。
ああ、やっぱり私は倒れたか、寝てしまっていたのだろう。
どんどん浮上してくる彼らの声に二人が言い争っていることに気がついた。
── 生きてるなら…分かり合えずとも喧嘩をすべきだよ。本音でぶつかり合えば…お互いの真意が見えてくることもある
確かにそう言ったのは私だけど、昨日からずっと喧嘩しているようにしか思えなくて早く起きて一旦止めなければと思った私は、重い瞼をあげるや否や、二人に声をかけた。
「もー、また、喧嘩…?二人とも落ち着いてー…」
まずは落ち着いてもらわなければ、蜜柑と柿のお礼すら言えないではないか。
そう思って二人を見れば、信じられないモノを見るかのように目を見開いて私を凝視してきた。
天元くんに至ってはすぐに私のそばに来て、体をペタペタ触りながら心配してくれるのだが…
(…な、なんか…今日はやけに触れてくるなぁ。)
嫌ではない。
嫌ではないけど昨日までの彼は私に触れるのもおっかなびっくり。
そこは少年らしさが出ていて可愛かったというのにたった1日で大人の余裕を出してきた天元くんに驚きを隠せない。
でも、やたらと触れてくるその手が暖かくてじわじわと状況が見えてきた。
寝ていた部屋は綺麗で掘立て小屋ではない。
夜は寒かったけどこの部屋は暖かい。
こんなふわふわな布団はなかった。
それに天元くんはこんなに大きくなかった。
目も両方見えてて、眼帯もなかった。
私のことをこんな目で見なかった。
今の彼は私を愛してくれている彼のそれだ。
「……あの、天承くんに柿と蜜柑の御礼を言いたかったんだけど…、あの、ひょっとして天元?」
視界の端には床に転がる蜜柑と柿があった。
でも、目の前にいたのはあの時代の彼らではなかった。