第42章 【番外編】過去との決別
「もー、また、喧嘩…?二人とも落ち着いてー…。」
その声に驚いたのは俺だけではない。
ほぼ同時に後ろを振り向くと薄っすらと目を開けていたほの花がそこにいた。
俺は慌ててほの花のそばに跪くと頬に手をよせた。
「っ、ほの花…!!大丈夫か…?苦しくねぇか?どこも痛くねぇか?目眩とか…熱はねぇけど…、頭は?痛くねぇか?!」
やっと目が覚めた愛おしい女にほの花が口を挟めないほどに質問責めにしてしまったが、横になっているほの花はキョトンとして俺を見上げていた。
「…天元くんも、天承くんも…すっごく大きくなったねぇ…。」
「……て、天元くん?」
「天承"くん"だと…?!」
思わずワナワナしながら天承までが口を挟んだが、その体は怒りなのか擽ったさからなのか震えていた。
「え…あれ?眼帯…、あれ?」
「ちょ、お、おい…お前大丈夫か?打ち所が悪かったのか?自分の名前言えるか?此処がどこか分かるか?」
あまりにしどろもどろになってキョロキョロし出したほの花にまた記憶喪失になってしまったのではないかという不安が過ぎった。
最早、どうなろうと何が起ころうとほの花を手放すつもりはないのだから関係ないことだが、それでもほの花が気に病む事象は少ない方がいい。
目を何度も瞬かせてからゆっくり起き上がったほの花は俺の顔に触れた。
「……あの、天承くんに柿と蜜柑の御礼を言いたかったんだけど…、あの、ひょっとして天元?」
「ひょっとしなくても俺だろ。どうした、大丈夫かよ。」
「…ほんとに?天元?」
もう片方の手も俺の頬に触れるとほの花の目が途端に潤み始めた。蜜柑だか柿だかわけわかんねぇけど、とにかくほの花が泣きそうになっているのだけが伝わってくるので俺も頭を優しく撫でてみた。
「他に誰に見えるんだよ。夫の顔忘れたとか二度と言わせねぇぞ。」
「………ふぇ、会いたかった…!もう一生会えないかと思った…!うぇええ…!天元ー!すきぃーー!!」
遂には泣き始めたほの花が俺の胸に飛び込んできたけど、何とかそれを受け止めた。
「おわっ!…はぁ?な、…わけわかんねぇな…」
泣いてる理由はわからない。
ただそこにほの花が帰ってきたと言うことだけが分かった。