第42章 【番外編】過去との決別
ほの花が眠ったまま三日が過ぎた。
流石に飲まず食わずはまずいと思い、とにかく茶だけは定期的に飲ませてやっているが、少しだけ頬がコケたように見える。
当たり前だ。
ただでさえ細くて、スラッとしているほの花。
飯を食わなければそりゃ痩せるに決まってる。
(胡蝶…どうすりゃいい?)
ほの花が遊郭での戦いの後、二週間目が覚めなかった時も、三日間疲労で眠りこけていた時も同じように胡蝶がいてくれた。
点滴を打ってくれたり、指示を出してくれていたことで俺は安心していた。
でも、今は…いない。
疲労で眠りこけていた時と同じ日数が経ってしまっているが、俺の気持ちはその時よりも遥かに焦っている。
これ以上、此処にいたらほの花はただ死を待つだけだ。
とにかく街に降りて医者を探すしかない。
そうしなければほの花は死ぬ。
俺が頭を抱えていると言葉も無く襖が開いた。
そこに誰がいるかなんて見なくてもわかる。
「…まだ、目は覚めないのか。」
「……医者に連れて行く。これ以上は待っても意味がない。早く見せねぇと餓死しちまう。」
「…そうか。…まぁ、あんたも早く目を覚ました方がいい。そんな女はもう捨て置け。死体なら処理しておいてや「ふっざけんなっつーの!!!」」
流石の俺も天承の冷たい言葉に堪忍袋の尾が切れた。
勢いよく立ち上がると天承の胸ぐらを掴み上げて押し付ける。その瞬間、そいつの手から何かが落ちたが、気にしていられなかった。
それほどまでに怒りが込み上げていたから。
どこまでも冷徹な男だ。
自分の弟だと思うと腹立たしい。
「…どんな理由があろうとも…ほの花が目を覚さなかったらお前を一生恨むぜ。初めて自分から愛した女なんだよ。」
「…だから何だ。お前みたいな男が兄貴かと思うと此方こそ胸糞が悪い。里を捨てたくせに偉そうな口を聞くな!!」
「何だと?!テメェらのやり方が気に入らねぇからだろうが!ほの花まで巻き込むことねぇだろ!」
「知るか!その女が勝手に頭打ち付けて気を失ったんだろうが!弱すぎる女を連れてきた自分を恨め!」
飛び交う言葉はお互いの恨みつらみ。
何の実りもないただの口喧嘩。
だけど、そんな喧嘩に終止符を打ったのは意外な人物だった。