第42章 【番外編】過去との決別
「わぁ!!美味しそうな蜜柑〜!!柿まである!!」
「…良かったな。」
天承がこんな風に他人に施しをする姿なんて初めて見たかもしれない。
自分の役に立たない奴は興味もない奴なのに。
だが、それ以前に人とそこまで擦れあったことのない奴だ。
あんな風に感情剥き出しに女が泣く姿を初めて見たことで動揺したのだろう。
いつも何処か遠目から冷めた目で見ていた天承。
そこに何の感情もないのだと思っていた。
でも…
(……自分でも気づいてないだけなのかもな…)
相容れない奴だと言うことは間違いないけど、俺自身もその先入観でアイツを見てしまっていたのかもしれない。
ちゃんとアイツと話したこともなければ、どこか"アイツと俺は違う"とお互いが思っていたことで一線を敷いていたのかもしれない。
良くも悪くも自分たちが自分たちの関係性を狭めていた可能性もある。
「ねぇ、天元くん!天承くんに直接お礼が言いたいなぁ。明日また来てくれるかな?」
「さぁ、どうだろうな。言えば来るんじゃねぇの。」
「そっか。じゃあ明日は一緒に来てよ!待ってるから!!」
そう言って笑ったほの花は先ほどの曖昧な笑顔ではなく、またいつもの花のような笑顔だった。
若干、面白くない気もしたけど、ほの花が笑ってくれるならそれで良かった。
天承と仲良くはないが、コイツが喜ぶなら一緒に来ようと思えた。
でも、その約束が果たされることはなかった。
翌日、俺と天承が珍しく二人で家を出て、ほの花を訪ねると其処はも抜けの殻になっていた。
何もかもやり途中だったことが窺える小屋の中。
食べかけの柿と蜜柑が仲良く並んでいるのに、まるでそこには誰もいなかったかのようだった。
「……幽霊だったんじゃねぇの?」
「馬鹿か。足あっただろ。」
「まぁ…そうか。変な、女。」
「そこは同意するぜ。でも…また、会える気もするな。」
「………どっちでもいい。」
会いたくなければ会いたくないとはっきり言う天承。
そう言わないのは会いたいと思っていたからだろう。
ほんの数週間の出来事。
でも、ほの花と出会ったのは間違いない。
同じ名前の旦那を持つ馬鹿だけど、花のように笑うアイツをきっと俺は忘れない。