第42章 【番外編】過去との決別
心配そうにこちらを見る天元くんに精一杯笑顔で返すけど、どうにも気持ちは落ちたまま。
急に恋しくなってしまったこの気持ちはきっと天元じゃないと取り戻せないもわかっている。
だけど、状況が変わるわけではない。
いま私がいるのは過去であって、今ではない。
悔やんでも嘆いても変わらない。
それならば少しでも目の前の彼に誠意を尽くさなければ失礼というもの。
「…無理して、笑わなくてもいいからな。」
「…っ、うん…。」
私だってこの気持ちが矛盾していることくらい分かっている。
天元であって天元でない彼に望んでも仕方ないことを望んでいる。
無い物ねだりをしている。
しかも、過去でも今でも天承くんに嫌われて、踏んだり蹴ったりだ。
神様は何で私をここに飛ばしたんだろう。
意地悪としか思えない。
再び込み上げてくる涙を何とか押し殺して、曖昧な笑みを向けていると、カサッと音がした。
天元くんと一緒にそちらを振り向くと、バツが悪そうな天承くんが再び現れていて、目を見開いた。
(…呆れて帰っちゃったんじゃないの?)
彼がこの場を離れたことは私だって分かっていた。
間者の疑いのある年上の女が一人泣き噦る姿など見たくないと思われたんだろうと勝手に解釈していたが、目を逸らしながらも再び現れた天承くんは「ん…」と言って何かを私に差し出した。
「…え…、えと?」
「いるのかいらねぇのか、ハッキリしろ!!」
「うわぁ!い、いります!!ありがとうございます!!」
突然大きな声で怒鳴ってきた天承くんに渡された包みを勢いで受け取ってしまったが、その意図がわからなくてキョトンとする。
中身は割と重さがあるコロコロとした丸いもの。
隣にいる天元くんに視線を移すと、同じように首を傾げている。
「…何の真似だ。天承。」
声に感情はない。ただただ疑問を彼に向けていただけ。
その言葉を受けてこちらをチラッと見て、天承くんはため息を吐いた。
「…間者じゃないってことは分かった。もう兄貴に口は出さない。勝手にすればいい。」
そう言うと踵を返して、天承くんはあっという間にいなくなった。
しかし、何も言うことなく、その姿を見送ることになってしまったことに私はものすごく後悔をすることになる。