第42章 【番外編】過去との決別
「人を殺せば恨みを買って、憎悪を膨らませるだけ。君は天元くんに守られたんだよ。感謝すべきだよ。」
「な、何だと?!」
「もし、私が死んでたら私の婚約者があなたを殺しにくるよ。」
「死など怖くない!!」
「でも、きっと君が死んだら天元くんは悲しむよ。」
天元と恋仲になり、彼の性格は分かっているつもりだ。天元は人の死を悲しめる人。
ずっとずっと気になっていたことがあった。
天承くんのこと、お義父様のこと。
"過去のことだから忘れたい、もう関係ない"
そう言って頑なに過去を抹消しようとしていたのは天元がずっとそのことを気にしていたという証拠。
自分で殺してしまった弟妹さんのことを想って…だというのも間違いないと思う。
でも、心のどこかで天承くんともお義父様ともちゃんと腹を割って話したいと思っているようにも見えた。
特に天承くんのことは心配しているようにも見えたのだ。
血を分けた兄弟。
たとえ分かり合えずとも一時は同じ釜の飯を食べて、共に修行をした者同士。
天元が里を出たことでもう其処には彼らしか分からない溝ができたのだろう。
天元が本当に気にしているのは殺してしまった弟妹の手前、お義父様の方針に誰よりも従順な天承くんと和解などしようものならば亡くなった弟妹を裏切ることだと思ってることではないか。
お義父様のやってることが許せない。
天承くんのことも相容れない。
でも、天元は彼らが亡くなったら気にしてない素振りをするだろうけど、きっと悲しむと思う。
だって彼は人の死を悲しむことができる人。
其れと同時に悲しみを感じさせないように立ち振る舞うことができる強い人だから。
誰よりも優しく、誰よりも強い。
そうやって天元は生きてきたんだ。
「天元くんのことを悲しませないで。彼は…私の命の恩人なの。」
私の…未来の旦那様なの。
これは越権行為なのだろうか。
未来が変わってしまう行為だとすれば私はもう未来に戻れないのかもしれない。
でも、信じるしかない。
これが未来の私たちに繋がる一石となることを。
そうじゃなければ、彼を傷つけるのは私になってしまう。
それだけは避けたい。
自分の里に連れてきた婚約者が実弟に殺されたなんていうことを事実にしてはいけない。