第42章 【番外編】過去との決別
天承がほの花にしたことがどうしても許せなくて彼女がアイツの手から逃れた瞬間、俺は天承につかみかかった。
間者だと疑うのはほの花のことを知らないから百歩譲って分かるとしても、何の確証も得ぬまま、ほの花を殺そうとしたのは我慢ならなかったからだ。
裏取りをしていたのならば、まだ分かる。
だが、コイツは本気でほの花を間者だと決めつけて殺しにかかった。
ほの花が自らその手から逃れなかったら危なかっただろう。
それなのに俺と天承の間に爽やかな笑い声が聞こえて来たのはその数秒後。
「ふっ…あは…ははは…!」
喉に手を当てて、苦しそうにしながらも笑っているのは今し方まで天承に痛めつけられていたほの花。
気でも狂ったのかと俺ですら思っていると先に天承がこちらを見た。
「…あの女、頭がおかしいぞ。殺した方がいい。」
「っ、馬鹿野郎!やめろ!」
「何故あんな女を庇う?!兄貴も気が狂ったのか?!」
「間者だという裏取りもしてねぇのに殺そうとする馬鹿が何処にいる!?それこそ愚の骨頂だろうが!」
「十分だろ?!こんなところで居座り続けるなんざ、俺たち宇髄家を狙う刺客に決まっている!!」
「コイツにンな能力ねぇよ!!すげぇ鈍臭ェんだぞ!!」
「ちょっと?!」
ほの花が途中で会話を遮ったことで、天承よりも俺が失礼なことを言ったことに気づいてしまい、「しまった…」と目線を逸らした。
「何だ、貴様。殺される気になったか。」
「やだよ、殺されたくない。結婚前の幸せ絶頂の私に死ねなんて酷いよ。それより二人とも兄弟喧嘩はたくさんした方がいいよ。」
「…何を…言っている?」
ほの花の言ってることに俺と天承が今度は顔を見合わせて訝しげな表情を返す。
それなのにほの花はニコニコと笑いながら俺たちと少しも目線を外さずに言葉を紡ぎ出した。
「生きてるなら…分かり合えずとも喧嘩をすべきだよ。本音でぶつかり合えば…お互いの真意が見えてくることもある。」
「…貴様に何が分かる。分かったような口を聞くな。」
天承がほの花に向かって再びクナイを突きつけるが、彼女は冷静にそれを見つめ返すだけ。
その姿は凛としていて少しの動揺も見られなかった。