第42章 【番外編】過去との決別
「っぐ…!」
──突然、息ができなくなった。
同時に視界が高くなったかと思うと、下の方で天元くんが目を見開いてこちらを見ていた。
首には少年時とは言え天承くんの握力で手がギギ…と締め付けていて圧痛を感じる。
「て、めぇ!離せ!天承!!」
「…こんなどこの誰かもわからん女を生かしておいたことがバレれば宇髄家の名折れだ。」
「ふっざ、けんな!」
天元くんが天承くんに攻撃を仕掛けるけど、私の首は絞められたままの状態で少しの刺激で痛みが増す。
思わず顔を顰めてしまったことで天元くんの動きが止まった。
(…ああ、やっぱり、天元は天元だ。)
いま、彼の頭の中には私をどう助けるか必死に考えてくれている。
それと同時に弟とこんな戦いをしなければいけないことに怒りと悲しみ、苦しみが散見する。
弟と争いたいなんてそんなことあるわけない。
私が引き金になってしまった。
でも、今私がここで死ねば、天元の心に一生遺恨が残る。
見ず知らずの女だとしても数週間は相手をしてくれた言わば"知人"程度の仲にはなっていることだろう。
そんな女が此処で弟である天承くんに殺されてしまったら絶対に駄目だ。
彼は本当に優しい人だから。
最近はちっとも戦っていない。
でも、元は音柱 宇髄天元の継子なのだ。
それこそキツい鍛錬もこなしてきたではないか。
私は天承くんのお腹を足で蹴り上げた。
まさか反撃されると思っていなかったのだろう。
天承くんの手は思いの外すぐに外されて、私は地面に転がった。
「っ、ごほっ、ゴホッ…!!」
「ほの花…!!」
慌てて天元くんがそばに来てくれて体を抱き起こしてくれるので、できる限りの笑顔を作る。
「貴様…!やはり間者ではないのか?!それでなければ反撃など出来るはずがない…!」
「疑う前に言うことがあるだろうが!」
天元くんの瞳が怒りに満ちていて心無しか支えてくれている手が震えていた。
結婚の挨拶に行った時、私もお兄様が天元に酷いことを言ったりして凄く悲しくて悔しくて苦しかった。
身内だからこそ余計に許せないこともある。
天元くんの気持ちが痛いほど伝わってきた。