第42章 【番外編】過去との決別
「…俺ならばこんなどうでもいい女を助けたりしない。兄貴は頭がどうかしたんじゃないのか。助ける義理なんて少しも無いだろうが。」
しかし、自分の弟とは言え一筋縄ではいかない奴だと言うのは重々分かっていた。
父親である首領と天承は性格がそっくり。
跡取りである長男は俺だが、どうもしっくりこないことも多々ある。
一つはこういうところだ。
確かにほの花を助ける義理なんてない。
知り合うはずのない人間とわざわざ関わり、助けてやるなんて忍らしからぬ行動だと言うのも分かっている。
忍び、耐える。
隠密に行動することを常とする俺たちにとって自ら一般人と関わるなんて、任務でもなければ避けたい事案だ。
だが、いま此処でほの花を放置するのは寝覚めが悪いと言うのは本当だ。
見たところ戦えると言っても"多少"だろう。
現在は体を壊していると言うし、襲われたら旦那の元に帰る前に死ぬ。
放っておけば野垂れ死ぬことも安易に想像できてしまうほの花を守ってやらないと思ったのはそこまで悪いことだろうか。
だが、天承や首領の考え方は違う。
"情けは無用"
それが他人に対してだけならばまだ分かる。
周りにいる近しい人間に対してもその精神が反映されるのは首を傾げてしまうのだ。
俺も許嫁が四人いる身として、嫁に来るのであれば来たことを後悔しないようにはしてやりたいと思う。
だが、それ自体がおかしなこととして扱われるのはどうなのか?
だからほの花が天元と言う旦那を心底愛しているという表情をして楽しそうに思い出話をしていることがすごく羨ましく感じた。
俺もそんな風に人を愛し、大切にしたいと思ったからだ。
ただこの里にいて生活しているだけでは培われない人間力みたいなものをほの花から感じた。
それは俺にとってはじめてのこと。
もっと知りたいと思うのに時間はかからなかった。
「俺が決めて勝手にやってることだ。お前に迷惑はかけていないはずだ。放っておけ。良いからほの花から離れろ。」
そう言うと渋々ほの花の背中から武器を離し、距離を取ったことでホッと一息吐く。
しかし、俺もまた距離を少し開けたことで、距離を取った天承が体を翻してほの花の首を掴み上げた。